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医療用医薬品一覧
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【ワーファリン】
VII‐1.プロテインC(プロテインSを含む)とその異常症(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
1.名前の由来と特徴
プロテインC(protein C)はビタミンK依存性蛋白質の1つとして、1976年Stenfloによりウシ血漿から、続いて1979年Kisielによりヒト血漿から単離精製された。“C”の名称は、精製過程のイオン交換クロマトグラフィーにおける“分画C”に由来する。
プロテインCは、分子量約62,000のビタミンK依存性血漿セリンプロテアーゼ前駆体の一つであり、分子のNH2末端近傍には、ヒトの場合9個のγカルボキシグルタミン酸(Gla)が存在する1,2)。
プロテインCの血中半減期は6~8時間であるが、活性化プロテインCの血中半減期は15~30分と短い。
2.機能
プロテインCは、生理的に不可欠な血液凝固制御物質であり、活性化し活性化プロテインCとして作用する。活性化プロテインCは、血小板膜上や血管内皮細胞膜上での血液凝固反応を強く阻害する。この凝固阻害は、活性化プロテインCが凝固補酵素蛋白質のVa因子およびⅧa因子を特異的に分解することによる。
プロテインC凝固制御系は、血管内で生成したトロンビンが血管内皮細胞膜上のトロンボモジュリンに結合することによって作動する。
トロンビンは凝固系を活性化する中心的存在であるが、いったんトロンボモジュリンに結合すると、その凝固促進活性を消失し、プロテインCのみを選択的に活性化する。
すなわち、同一のトロンビンが、凝固系の活性化と制御の両面に対し生理的に作用する3)(図1参照)(Ⅱ-1-4.「ワルファリンの作用機序」の項参照)。
3.プロテインC異常症(欠損症)
先天性プロテインC異常症(欠損症)の患者の多くはヘテロ接合体で、稀にホモ接合体や複合ヘテロ接合体が存在する。
ヘテロ接合体患者は思春期後半から青年期にかけて深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、表在性静脈炎、腸間膜静脈血栓症などの静脈性血栓症を反復的に発症し、発症頻度は加齢に伴い増加する3)(Ⅱ-6「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症)」の項参照)。
4.プロテインC異常症(欠損症)の治療
ヘテロ接合体プロテインC異常症(欠損症)の治療については、無症状の症例には通常は治療を行わない。最も頻度の高い深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症の症例には、活性化プロテインCの濃縮製剤が使用できる。また、抗凝固薬療法を行う場合、最初にヘパリンの投与を行い、引き続いてワルファリン等の経口抗凝固薬を投与する。これは経口抗凝固薬投与によりプロテインCがさらに低下し、皮膚壊死などを起こす危険性があるので、それを避けるためである。
5.活性化プロテインCレジスタンス(APC resistance)
最近発見された先天性活性化プロテインCレジスタンスは、活性化プロテインC基質の一つの凝固第Ⅴ因子の先天性異常症であり、第Ⅴ因子が活性化プロテインCで失活化されないために、深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症などの血栓塞栓症をきたす患者である。
特筆すべき点は、欧米での患者数がきわめて多いことである。発生頻度は地域によって異なり、北欧での発症率はきわめて高い(全人口の10%程度)が、アジア系人種にはほとんどみられない3)。
6.薬剤としてのプロテインC
プロテインC及び活性化プロテインCは、新しい抗血栓薬として承認されている。
動物の血栓症モデルで、活性化プロテインCが有意に死亡率を低下させ、凝固異常や肝機能障害を改善したことが報告されている。臨床では、まだ使用例数が少なく、今後の検討結果が待たれる。
活性化プロテインCは、ヘパリンなどの既存の抗凝固薬が無効な症例に対して有効で、出血症状を増悪させないことが示唆されている。
7.ワルファリンとプロテインC
ワルファリン投与によって肝での生合成が阻害され、プロトロンビンなどのビタミンK依存性凝固因子と同様にプロテインCは低下する4,5,6)。
プロテインCは、プロトロンビンなどのビタミンK依存性凝固因子より半減期が短いため他の因子より先に低下することから、ワルファリン投与開始時は少量からの投与が推奨されている7)。
また、プロテインC活性の急速な低下が原因で、一過性の過凝固状態となることがあるので、プロテインC活性又は抗原量が正常域より低下しているか否かを、ワルファリン投与前に確認しておくことが望ましい。
一方、長期投与の場合では、心臓外科領域の患者で臨床上問題となる低下は起こらないとの報告がある8)。
8.プロテインSとプロテインS異常症(欠損症)
プロテインSは、プロテインCと共に凝固制御系に作用するビタミンK依存性蛋白の1つであり、活性化プロテインCの補助因子として作用して活性化プロテインCの凝固制御作用を増強することが知られている(図1)。
濱崎らは、静脈血栓症の約40%にプロテインSの活性低下が認められることからプロテインS異常症(欠損症)は血栓症と関与することを示唆し、プロテインCと共にプロテインSの異常が日本人に多いことを報告した9)。
また、プロテインS活性が低下した血栓症患者の変異型プロテインS分子を機能解析して、血栓症との関与について報告した10)。
今後、日本人の血栓性素因としてプロテインS異常症(欠損症)またはプロテインS活性低下に関するさらなる検討が望まれる。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)鈴木 宏治: 医学のあゆみ, 125, 901(1983) KTZ-0250
2)鈴木 宏治: 臨床検査, 28, 25(1984) KTZ-0285
3)鈴木 宏治ら:臨床医, 21, 1649(1995) ZZZ-0031
4)高橋 芳右ら: 血液と脈管, 17, 354(1986) WF-0339
5)桜川 信男ら: 臨床病理, 34, 464(1986) WF-0323
6)長田 鉄也ら: 血液と脈管, 18, 158(1987) WF-0376
7)工藤 龍彦ら: 胸部外科, 41, 644(1988) WF-0525
8)工藤 龍彦ら: 血液と脈管, 20, 309(1989) WF-0512
9)濱崎 直孝: 日本血栓止血学会誌, 11, 347(2000) ZZZ-0041
10)井上 須美子ら: 日本血栓止血学会誌, 16, 641(2005) ZZZ-0042