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医療用医薬品一覧
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小児の血栓症は、その発現頻度や成人の適応疾患とは異なる部分がある。ワルファリンの小児に対する適応疾患に関する情報はまだ十分でない。投与量や投与方法については、海外の添付文書においても無作為比較試験によるエビデンスは得られておらず、成人での使用方法を参考に、血液凝固能検査の結果に基づいて個々に決定されているのが現状である。
ワルファリンの小児への適応については、日本小児循環器学会からの要望を受け、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され、海外における承認状況や国内での小児へのワルファリン使用実績調査等を評価した結果、2011年2月23日、「血栓塞栓症の治療及び予防」に対する小児の「用法・用量」が以下のように追加承認された。
小児における維持投与量(mg/kg/日)の目安
12ヵ月未満:0.16mg/kg/日
1歳以上15歳未満:0.04~0.10mg/kg/日
12ヵ月未満では、年長児に比べて体重あたりの平均投与量が高く、バラツキも多いとされている。1歳以上になると体重あたりの平均投与量は成人での値に近くなってくる。
1.適応症
血栓症の発現頻度の高い対象としては、川崎病冠動脈瘤6)などに対する人工血管を用いる手術、人工弁置換術1,2,3,9)、心奇形に対するFontan型手術などの心疾患関連の手術症例5,8)などである。また、プロテインC7,11)、プロテインS、アンチトロンビンなどの先天性の欠乏症や抗リン脂質抗体症候群10,12)などで抗血栓療法を必要とする症例がある。人工弁置換術後症例以外は血栓予防のために抗凝固薬を投与することがガイドライン等で明確に推奨されておらず、各医療機関の治療方針によるところが大きい。
日本人の使用実態としては、「小児薬物療法におけるデータネットワークのモデル研究について(主任研究者:石川洋一)平成14年度 総合研究報告書」14)において、貴重な情報が報告されている。また、国内ガイドラインの記載が参考となる。
調査症例201例中78例が成人と同様に血栓塞栓症(静脈血栓症、心筋梗塞症、肺塞栓症、脳塞栓症、緩徐に進行する脳血栓症等)の予防・治療として使用されている。その他として分類された症例は123症例であるが、これらの症例においても、心不全の1例を除き、基本的には血栓塞栓症の予防又は治療での使用と考えられた。
2.用法・用量の設定
小児の用法・用量について、「ワルファリンに対する感受性には個体間差が大きいこと」、「ワルファリンの投与量は、病態、血液凝固能検査結果等に基づき個別に設定されること」及び「用法・用量の根拠となるフランスの添付文書においても実地経験と文献データに基づき平均維持投与量が小児の用量の参考情報として記載されていること」を踏まえ、国内使用実態調査15)における小児の維持投与量を用法・用量に追加することとなった。
1)基本的な考え方
・小児の投与法も、成人と同様に血液凝固能検査に基づいて維持量を決定。
・平均維持投与量を12ヵ月未満と1歳以上に区分。
・本邦の小児を15歳未満として設定。
・初回投与量は、平均維持用量に近似した用量と想定。
・日本人小児の用量設定の根拠については、厚生労働科学研究補助金事業「小児薬物療法におけるデータネットワークのモデル研究について総合研究報告書」14)のデータを参考とする。
2)「川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)」の投与量も概ね包含した。
3)国内の臨床使用実態の体重あたりの投与量15)も参考とした。
国内では検証的に行われた用量設定試験はないが、ワルファリンの使用実態15)が報告されている。調査協力施設31施設の全診療科における16歳以下の患者のワルファリンの使用実績について調査した結果、回答があった25施設において、201症例のワルファリン使用の報告があった。このうち、年齢、体重、及び投与量が報告された161例について、年齢別の平均維持投与量(mg/kg/日)を次の表に示す。
3.小児用量と治療域
小児のワルファリン療法の公認ガイドライン作成を目的とした調査が報告されている4)。対象患者115名を目標INR2~3群94名と目標INR1.3~1.7群21名に分けた。目標INR2~3群は年齢が増すごとに体重あたりのワルファリン必要量が減少した(1才未満は0.32mg/kgに対して11~18才で0.09mg/kg)。目標INR1.3~1.7群は1才以降の平均が0.08mg/kgであった。
また、ワルファリンの小児用量は体表面積や予測肝重量を基に算出し、感受性の上昇を考慮すればほぼ適切な予測が可能であるとの報告がある13)。
大規模な臨床試験は行われていないが、これらの知見に基づいて、個々の症例に合わせて慎重に投与する。
ワルファリンは血液凝固能検査を定期的に(1~2回/月)実施し、治療域内に維持する薬剤であるため、年齢毎の投与量は設定されていない。
しかし、一般に小児は外傷により出血する可能性が高く、また治療域内に安定して維持することが難しいなど、問題が多い。
小児へワルファリン投与をする時のトロンボテストの設定治療域は、施設により異なる。
1)Bradleyら3)の報告では、平均7.9才(3ヵ月~19才)の機械弁置換を行った患者にワルファリン(平均0.16mg/kg/日:プロトロンビン時間比1.5~2.5)あるいは抗血小板薬の併用(アスピリン:平均6.1mg/kg/日およびジピリダモール:平均1.9mg/kg/日)投与を行ったところ、ワルファリン単独投与群は抗血小板薬2剤併用群に比べ、血栓塞栓症の合併は見られなかったとしている。出血例(重篤な例は1例も発生していない)はワルファリン療法群で認められてはいるが、幼少年の機械弁置換患者では抗凝固薬療法を行う方がよいとしている。
2)金沢ら2)はトロンボテスト値を20±5%に維持したところ、血栓塞栓症の発生頻度は43%/年から1.7%/年へと激減したとしている(小児の僧帽弁置換例)。
3)青柳ら1)は人工弁置換術後の小児患者にワルファリンにジピリダモールを併用しトロンボテスト値を20~40%に維持して好成績を得ている。
4)篠原ら5)は弁置換術後またはFontan型手術後、抗凝固療法中の患者15例の実態を報告した。ワルファリンの投与量は、1~2ヵ月に1回測定するトロンボテスト値を15~25%に保つことにより、決定されている。年少例では適正な治療域を維持することが難しく、結果として血栓弁を3例に認めた。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)青柳 成明ら: 日本小児外科学会雑誌, 23, 539(1987) WF-0377
2)金沢 宏ら: 胸部外科, 44, 887(1991) WF-0745
3)Bradley LM et al.: Am. J. Cardiol., 56, 533(1985) WF-0442
4)Andrew M et al.: Thromb. Haemost., 71, 265(1994) WF-0823
5)篠原 徹ら: 小児科診療, 59, 416(1996) WF-0950
6)加藤 克治ら: 埼玉県医学会雑誌, 23, 1007(1988) WF-2004
7)Miljic P et al.: Eur. J. Haematol., 64, 130(2000) WF-1282
8)Tait RC et al.: Arch. Dis. Child., 74, 228(1996) WF-0989
9)阿部 正一ら: 日本心臓血管外科学会雑誌, 25, 36(1996) WF-0976
10)山崎 恒ら: 小児科, 42, 1698(2001) WF-1389
11)肥田野 洋ら: 日本産婦人科・新生児血液学会誌, 8, S77(1998) WF-1958
12)M.-Johnson MJ et al.: Am. J. Hematol., 48, 240(1995) WF-0897
13)高橋 晴美ら: 日本小児臨床薬理学会雑誌, 14, 44(2001) WF-1463
14)厚生労働科学研究補助金事業「小児薬物療法におけるデータネットワークのモデル研究について(主任研究者:石川洋一)平成14年度 総合研究報告書」 39(2003) WF-3445
15)厚生労働科学研究補助金事業「小児薬物療法におけるデータネットワークの実用性と応用可能性に関する研究(主任研究者:石川洋一)平成16~18年度 総合研究報告書」 31(2007) WF-3446