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悪性腫瘍もしくは癌患者では、血栓塞栓症だけでなく出血のリスクを有する対象として、従来から様々な視点で検討されてきた。癌治療の進歩により患者の生存期間の延長など、対象となる患者の増加が考えられ、今後も大きな課題として認識される。
Review Johnson(1997)32)は、悪性腫瘍患者での出血と凝固についてまとめた。
悪性腫瘍による止血の変化(表1)、悪性腫瘍患者における出血の原因(表2)、血栓形成傾向を示す悪性腫瘍(表3)などを示し、抗凝固療法施行中の悪性腫瘍患者では、非悪性腫瘍患者より出血事故が多いとの報告や、抗凝固療法施行中の悪性腫瘍患者の出血事故の頻度が高いとの報告がある。悪性腫瘍患者での抗凝固療法として、ワルファリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、下大静脈フィルターの有用性を検討した報告を概観し、適切な抗凝固療法の選択について論じた。
RCT Levineら(1994)33)は、乳癌患者の血栓塞栓症発生の予防として、ワルファリンの少量投与の有効性と安全性を二重盲検試験にて検討した。ワルファリン群はINR1.3~1.9に調節した。血栓塞栓発症はプラセボ群159例中7件、ワルファリン群152例中1件に発生した。出血はプラセボ群5件、ワルファリン群8件であった。
RCT Falangaら(2002)34)は、ステージⅣ転移乳癌患者の凝固能亢進に対する低用量ワルファリン(目標INR 1.3~1.9)の効果をプラセボとの無作為割付試験で検討した。癌患者で上昇することを確認した血漿中トロンビン-アンチトロンビン複合体、プロトロンビン・フラグメント1+2、D-ダイマーを低用量ワルファリンが有意に低下させることから、化学療法中の癌患者の凝固能亢進状態を改善することを示唆した。
・癌患者での静脈血栓塞栓症、大出血のリスク
OBS Huttenら(2000)35)は、静脈血栓塞栓症の初期治療を比較した2つの臨床試験を統合解析し、癌患者と非癌患者の静脈血栓塞栓症の再発、大出血の頻度を検討した。ビタミンK拮抗薬は目標INR 2.0~3.0で3ヵ月継続した。100患者・年あたりの発現件数は、静脈血栓塞栓症の再発では癌患者群27.1件、非癌患者群9.0件であり、大出血の発生では癌患者群13.3件、非癌患者群2.1件であった。適切な抗凝固療法下でも癌患者の静脈血栓塞栓症再発、大出血は非癌患者より多かった。
OBS Prandoniら(2002)36)は、静脈血栓塞栓症発症後にヘパリン・ワルファリンで治療中の癌患者181例、非癌患者661例について観察研究により検討した。確立した深部静脈血栓症の癌患者では非癌患者より静脈血栓塞栓症の再発や大出血に進展しやすく、これらのリスクは癌の程度と相関することが示された。
OBS Monrealら(2006)37)は、RIETE registryにて、症候性急性深部静脈血栓症、肺塞栓症を発現した活動性癌患者2,945例、非癌患者11,446例を3ヵ月追跡し、検討した。致死性肺塞栓症を有意に増大させる独立因子として、発症前2ヵ月以内の4日以上の臥床(手術例を除く)、入院時の症候性肺塞栓症、転移性癌との関連が示された。致死性大出血を有意に増大させる独立因子として、体重60kg未満、血清クレアチニン高値、4日以上の臥床(手術例を除く)、転移性癌との関連が示された。致死性肺塞栓症及び致死性大出血は、癌患者が非癌患者に比べ頻度が高いことが示された。
OBS Trujillo-Santosら(2008)38)は、RIETE registryにて、症候性急性深部静脈血栓症、肺塞栓症を発症した活動性癌合併例3,805例を3ヵ月追跡し、静脈血栓塞栓症再発、大出血の発症に関連する因子を検討した。静脈血栓塞栓症を伴う癌患者が再発や大出血に対する高リスクであることが同定された。
OBS Prandoniら(2008) 39)は、急性症候性深部静脈血栓症、肺塞栓症発症後にビタミンK拮抗薬(目標INR 2.0~3.0)で治療中の患者12,744例を3ヵ月追跡し、静脈血栓塞栓症再発および大出血のリスクを観察研究にて検討した。非癌患者11,365例、転移ある癌患者407例、転移のない癌患者972例にて、非癌患者より癌患者、転移のある癌患者では静脈血栓塞栓症再発、大出血が有意に多いことが示唆された。
OBS Trujillo-Santosら(2010)40)は、RIETE registryにて、症候性急性深部静脈血栓症、肺塞栓症(PE)を合併した活動性癌患者4,709例を3ヵ月追跡し、大出血発症に関する検討を行った。3ヵ月の大出血の頻度は4.2%であった。死亡患者の3分の1が出血を原因とした。また追跡可能な3ヵ月以上の症例でも出血の注意を要する。
・低分子量ヘパリンとの臨床試験
RCT Leeら(2003)41)は、活動性癌患者で発症した急性症候性深部静脈血栓症、肺塞栓症をダルテパリン投与群とクマリン系抗凝固薬投与群との無作為割付比較試験で検討した。6ヵ月の追跡期間にて、ダルテパリンはクマリン系抗凝固薬に比べ、出血のリスク増加なしに再発性血栓塞栓症のリスク減少を示した。
RCT Meyerら(2002)42)は、肺塞栓症・深部静脈血栓症を合併した癌患者にてエノキサパリンとワルファリンとで静脈血栓症二次予防を無作為割付比較試験にて検討した。目標INR 2.0~3.0で投与期間は3ヵ月で評価し、血栓塞栓症は確認されず、重大な出血はワルファリン群75例中12例でエノキサパリン群71例中5例であった。
RCT Deitcherら(2006)43)は、活動性癌患者で発症した急性深部静脈血栓症・肺塞栓症の二次予防について、エノキサパリンのみの2群とエノキサパリンに続いてワルファリンでフォローする群を無作為割付比較試験で検討した。目標INR 2-3、追跡期間180日にて、エノキサパリン治療の実行可能性、忍容性、効果等を確認した。
RCT Hullら(2006)29)は、近位静脈血栓症を合併する癌患者において、チンザパリン(国内未発売)の低分子量ヘパリン(LMWH)群100例と未分画ヘパリン/ワルファリン(目標INR 2.0-3.0)従来の抗凝固療法群100例との無作為割付比較臨床試験で検討した。治療開始後12ヵ月間での近位静脈塞栓を伴った癌患者の静脈血栓塞栓再発予防に対して低分子量ヘパリンの長期投与がビタミンK拮抗薬に代わり得ることを示した。
・周術期管理における癌患者の静脈血栓塞栓症、出血のリスク
OBS Tafurら(2012)44)は、ワルファリン、低分子量ヘパリン(LMWH)の長期投与中に観血的手技、手術を要した活動性癌患者435例493手技、非癌患者1,747例1,991手技観察研究にて3ヵ月追跡し、血栓塞栓症、大出血の発生率を検討した。癌患者群/非癌患者群の各発生率は、動脈血栓塞栓症0.2%/0.5%では有意差はなく、静脈血栓塞栓症1.2%/0.2%、大出血発生率3.4%/1.7%ではいずれも癌患者群が有意に高かった。3ヵ月生存率は癌患者群が95%と非癌患者群の99%より有意に低かった。
・化学療法関連の静脈血栓塞栓症予防
OBS Linら(2006)45)は、化学療法、放射線療法施行中に遺伝子組換えヒトトロンボポエチンを投与している子宮頸癌、外陰癌、膣癌の患者で発症する深部静脈血栓症対する低用量ワルファリン投与による抑制効果をレトロスペクティブな観察研究で検討した。1-2mgの低用量ワルファリン投与群24例中9例と非投与群32例中10例で発生率に有意差はなく、深部静脈血栓症の抑制効果を認めなかった。
OBS Millerら(2006)46)は、多発性骨髄腫または慢性リンパ性白血病の治療薬サリドマイド関連性の静脈血栓塞栓症予防に対する低用量ワルファリンを検討した。4ヵ月で血栓塞栓症(肺塞栓症3例、深部静脈血栓症1例)4例(5.9%)を発症し、3例が無症候性であった。出血事故は発生しなかった。既存対照データでの検討にて、低用量ワルファリンはサリドマイド関連性の血栓塞栓症を減少する可能性が示唆された。
OBS Ciniら(2010)は47)、多発性骨髄腫のサリドマイド+デキサメタゾン併用療法では、血栓塞栓症リスクが高まる可能性があり、非予防群に対しワルファリン投与群で血栓塞栓症が有意に低いことを示した。
OBS Katoら(2013)は48)、多発性難治性および再発性の骨髄腫に対するサリドマイド療法の市販後臨床試験が実施された。血栓塞栓症予防目的でアスピリンまたはワルファリンを投与されていた。血栓塞栓症発症は、予防投与実施群/非実施群で1.7%/1.2%、アスピリン投与群/非投与群で1.3%/1.4%、ワルファリン投与群/非投与群で2.4%/1.3%であり、抗血栓療法の有意な予防効果は認められなかった。
・中心静脈カテーテル関連の静脈血栓塞栓症予防
RCT Youngら(2009)49)は、中心静脈カテーテル経由の癌化学療法を施行中の患者でワルファリンの血栓症予防効果を無作為割付試験で検討した。本試験からはワルファリンの予防効果を確認できなかった。
RCT Lavau-Denesら(2013)50)は、固形浸潤癌で鎖骨下中心静脈カテーテルを挿入した患者にて、低用量ワルファリン(1mg/日)群134例、低分子量ヘパリン(LMWH)群138例及び抗凝固療法非施行の対照群135例にて無作為割付臨床試験を行い、カテーテル挿入6日以内に投与開始、90日間の追跡でカテーテル関連深部静脈血栓症の有無を検討した。カテーテル関連深部静脈血栓症では低用量ワルファリン群8例、LMWH群14例、対照群20例で、対照群に対する抗凝固療法群の相対リスクは各々0.55であった。非カテーテル関連深部静脈血栓症はワルファリン群1例、LMWH群1例、対照群7例で、抗凝固療法群の相対リスクは0.14であった。癌患者に対する中心静脈カテーテル挿入時の抗凝固療法は深部静脈血栓症予防に有用と考えられた。
【参考文献】 [文献請求番号]
29)Hull R.D. et al.: Am.J.Med., 119, 1062(2006) WF-4301
32)Johnson,M.J. et al.: Clin.Oncol., 9, 294(1997) WF-3781
33)Levine,M. et al.: Lancet, 343, 886(1994) WF-0811
34)Falanga,A. et al.: Thromb.Haemost., 79, 23(1998) WF-1088
35)Hutten,B.A. et al.: J.Clin.Oncol., 18, 3078(2000) WF-3780
36)Prandoni,P. et al.: Blood, 100, 3484(2002) WF-3776
37)Monreal,M. et al.: J.Thromb.Haemost., 4, 1950(2006) WF-3777
38)Trujillo-Santos,J. et al.: Thromb.Haemost., 100, 435(2008) WF-3778
39)Prandoni,P. et al.: Haematologica, 93, 1432(2008) WF-3775
40)Trujillo-Santos,J. et al.: Thromb.Res., 125, S58(2010) WF-3779
41)Lee,A.Y.Y. et al.: N.Engl.J.Med., 349, 146(2003) WF-1632
42)Meyer,G. et al.: Arch.Intern.Med., 162, 1729(2002) WF-2125
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44)Tafur,A.J. et al.: Ann.Oncol., 23, 1998(2012) WF-3774
45)Lin,A. et al.: Gynecol.Oncol., 102, 98(2006) WF-2527
46)Miller,K.C. et al.: Leuk.Lymphoma, 47, 2339(2006) WF-2410
47)Cini,M. et al.: Eur.J.Haematol., 84, 484(2010) WF-3276
48)Kato,Atsushi et al.: Thromb.Res., 131, 140(2013) WF-3930
49)Young,A.M. et al.: Lancet, 373, 567(2009) WF-2992
50)Lavau-Denes,S. et al.: Cancer Chemother.Pharmacol., 72, 65(2013) WF-3974