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【ワーファリン】
VI‐3.3.ワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)と類似する疾患との鑑別(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
ワルファリン療法中に遭遇する皮膚疾患の中には、ワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)と類似した疾患がある1,32)。その中には症状の進展が早く、予後不良となる疾患も含まれるため、ワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)との鑑別が必要であり、個々の疾患に適した治療方法を選択することが重要と考えられる。
Nazarianら(2009)32)がワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)と類似した疾患についてまとめている。その鑑別に有用な臨床症状の特徴を表2.に、病理学的に類似した広範囲皮膚血栓性血管障害を呈する疾患とその臨床上の特徴を表3.に示す。
臨床的にワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)は、プロテインC及びS欠乏症などの先天性疾患に加え、カルシフィラキシス、微小血栓塞栓症(敗血症性塞栓、コレステロール結晶塞栓(CCE))、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)・血栓症症候群(HITT:heparin-induced thrombocytopenia with thrombosis)の結果として生ずる皮膚壊死、DIC、電撃性紫斑、壊死性筋膜炎、クリオグロブリン血症、炎症性乳癌、褥瘡性潰瘍、そして蛇毒起因性皮膚壊死と類似している32)。
1)WISNと類似する疾患「コレステロール結晶塞栓症(CCE)」
「コレステロール結晶塞栓症(CCE: Cholesterol Crystal Embolization)」は、「コレステロール塞栓症」などと表記される場合もあるが、ワルファリン誘因性皮膚壊死(WISN)と機序が異なり、大動脈などの大血管壁に存在する粥状硬化巣の損傷により断続的な崩壊が生じ、構成成分であるコレステロール結晶が飛散して、その部位より末梢の小動脈を閉塞することによって起こる疾患である33,34)。また、Blue toe症候群(青趾症候群)35)、Purple toe syndrome(紫趾症候群)33)は、コレステロール結晶塞栓症の特徴的な臨床所見として知られ、Shaggy aorta 36)などと呼ばれることもある。
(1)コレステロール結晶塞栓症(CCE)の概要
コレステロール結晶塞栓症(CCE)について、以下の表4.に概要を示す。
(2)欧米規制当局の見解
Label, FDA(U.S. Food and Drug Administration)(2016.9)
欧州、SmPC(summary of product characteristics)には記載がない。
(3)症例報告
国内でワルファリン投与中に発現した症例が報告されている。
Case 62才男性でワルファリン投与中に血管内操作(心臓カテーテル検査、PTCA)を誘因として発症し、両下肢の皮疹と陰部の潰瘍を伴ったCCEを発症した。Blue toe syndromeを認め、ワルファリンを中止し、アルプロスタジル静注投与、抗血小板薬投与、硬膜外麻酔、高圧酸素療法及び抗潰瘍剤の外用剤投与等を行ったが、両足趾の壊疽、亀頭及び陰嚢の潰瘍・壊疽を発現した。数回のデブリードマンと外用剤塗布により上皮化したが、両足趾の壊疽は拡大し、切断術を施行した48)。
Case 65才男性で、ワルファリン及び抗血小板剤投与中に冠動脈バイパス術を施行し、術後急な発熱と両側足底の斑状チアノーゼ及び急性腎不全を発症した。CCEと診断され、抗血栓薬中止後にプロスタグランジン製剤投与に続き、ステロイドパルス療法を実施した。末梢循環不全及急性腎不全は徐々に改善し、予定していた腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術を施行後に軽快退院した41)。
Case 81才男性で、ワルファリン長期投与中に皮膚潰瘍が発現し、入院後のデブリードマンでCCEと診断された。ワルファリン中止後に脳梗塞があり、皮膚潰瘍の拡大が治まったのち、ヘパリン投与開始及びワルファリン再開した。ヘパリン14日間投与にて中止、ワルファリンは継続中でその後CCEの再発なく経過している49)。
Case 66才男性で、糖尿病、高脂血症、高血圧症、胸部大動脈瘤、心房細動及び陳旧性脳梗塞があり、ワルファリン投与中であった。左足の有棘細胞癌切除術施行の数年後に慢性腎不全治療中に腎機能の急速な低下と両脚の疼痛や網状皮斑を伴ったCCEを発現した。ワルファリン中止し、プレドニゾロン内服治療とLDLアフェレーシスを開始し、改善に至った45)。
Case 冠動脈バイパス術後にCCEによる急性腎不全を生じた症例42)
Case 心血管造影後に発症したCCEによる進行性腎機能障害を生じた症例50)
Case 視野欠損を伴ったCCEの症例51)
Case 抗凝固療法中に発症し継続投与で慢性に経過したCCEの症例44)
Case 短期間に3度小腸穿孔をきたしたCCEの症例52)
海外でワルファリン投与中に発現した症例37,38,53)が報告されている。また、Blue toe(Purple toe)症候群を発現した症例も報告54)されている。
2)WISNと類似する疾患「カルシフィラキシス」
カルシフィラキシス(Calciphylaxis/ calcific uremic arteriolopathy)は、主に慢性透析患者に多発性皮膚潰瘍を生じ、病巣の感染により敗血症に進展することが多く、半数以上が死亡に至る予後不良の疾患である55)。1962年Selyeらにより提唱され、カルシウム代謝異常による小血管の石灰化を指していたが、臨床では、難治性皮膚潰瘍で小血管石灰化が原因と考えられるものをカルシフィラキシスとしている。
(1)カルシフィラキシスの診断基準(案)
厚生労働省難治性疾患克服研究事業「Calciphylaxisの診断・治療に関わる調査・研究」班では、以下の臨床症状2項目と皮膚病理所見を満たす場合、または臨床症状3項目を満たす場合calciphylaxisと診断されるとしている。
(2)WISNとカルシフィラキシスの特徴の比較
Chaconら(2010)56)は、ワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)とカルシフィラキシスの特徴を比較している。早期の臨床症状は類似しているが、その病因は異なり、選択される治療も異なることから鑑別が重要と考える。
(3)欧米規制当局の見解
2016年、欧州ではワルファリンの使用がまれにカルシフィラキシスを引き起こす合理的な可能性があると結論づけている。米国では関連性に言及していないが、カルシフィラキシスと診断された患者ではワルファリン中止を支持する点は同様である。
SmPC, MHRA(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)(2016.6)
Label, FDA(U.S. Food and Drug Administration)(2016.9)
(4)症例報告
国内でワルファリン投与中に発現した症例がいくつか報告されている。
佐藤ら(2010)57)は、心房細動にワルファリン、二次性副甲状腺機能亢進症に活性型ビタミンD製剤を投与中にカルシフィラキシスを発症した末期腎不全・血液透析の3例を報告した。
Case 66才男性では、左大腿内側に皮疹の発現拡大および疼痛の発現のため、ワルファリン中止、セベラマー投与開始、創部デブリードマン施行、パミドロン酸大量投与で改善せず、チオ硫酸ナトリウム投与開始も腹膜炎を発症、DICを合併し死亡した。
Case 53才女性では、右下腿に潰瘍の発現拡大および疼痛の発現のため、ワルファリン中止、セベラマー投与開始、ビタミンD減量、創部デブリードマン施行し、高圧酸素療法を行い、徐々に肉芽形成、潰瘍縮小、疼痛軽減を示した。
Case 72才男性では、肺炎での入院前後より両下腿に有痛性、紫紅色調の皮疹、亀頭部に有痛性の潰瘍病変の発現を認めた。臨床的にカルシフィラキシスを疑い、デブリードマン施行、生検にて確定診断した。ワルファリン中止したが、腹膜炎発症、DICを合併して死亡した。
他にも血液透析など腎疾患を有する患者で報告されている。また、チオ硫酸ナトリウムなど、保険適用外であるが、治療薬として使用されるケースがある。
Case 59才女性では、慢性腎不全で17年前より血液透析中、1年2ヵ月前から右下腿に痂皮、紅斑が出現、潰瘍を形成した。近医にてプレドニゾロン、ワルファリンなどの加療でも改善せず、受診4ヵ月前に疼痛が増悪した。受診時には両側下腿内側の痂皮、壊死組織を伴う有痛性の潰瘍形成を認めた。左下腿潰瘍辺縁部生検で真皮深層~皮下脂肪組織の小動脈の中膜内弾性板側石灰化、臓器石灰化のない遠位型カルシフィラキシスと診断した。ワルファリンは中止し、シロスタゾールを開始、スルファジアジン銀外用を使用した。治療開始4ヵ月後には完全に上皮化し、8ヵ月後では再発はない58)。
Case 長期血液透析中の66才白人男性が発症した下腿有痛性多発性潰瘍に対してチオ硫酸ナトリウムが奏功したと報告している59)。
Case 4年前から慢性腎不全で血液透析中の58才男性に発現した皮膚潰瘍に対して、デブリードマン施行、チオ硫酸ナトリウム投与にて徐々に改善し、治癒に至った55)。
Case 血液透析中に急速進行性の両側大腿内側皮膚潰瘍を生じた症例60)。
Case 壊疽性膿皮症と鑑別を要した難治性下腿潰瘍の症例61)。
Case 血液透析中に下腿潰瘍を生じ、チオ硫酸ナトリウムが奏功した症例62)。
海外で透析等を実施している腎疾患症例においてワルファリン投与中に発現したカルシフィラキシスの症例が報告63-67)されている。また、腎不全や副甲状腺機能亢進を伴わない症例68)も報告されている。
(5)症例報告/WISNとの鑑別困難な事例
WISNとの鑑別が難しいケースについても報告がある。
・当初カルシフィラキシスが疑われたWISN56)
Case 海外にて当初カルシフィラキシスが疑われたWISNの43才女性の症例報告で、透析施行中の末期腎不全で心房細動、右房内血栓、深部静脈血栓症、プロテインC、S欠乏症を合併し、発症1年前からワルファリンを服用していた。10日前より胸部、腹部、大腿に不快感が現れ、広汎な灼熱痛となり入院した。両胸に1~2cm径の不連続な結節を認め、3日後には多発性でレース様の紅斑性発疹、色素斑へと進展した。当初、副甲状腺ホルモン高値、高リン血症からカルシフィラキシスを疑い、連日透析を行った。WISNも考慮してワルファリンを中止、ヘパリン投与とした。皮膚生検で皮下組織に広汎な壊死、多量の血栓を認め、血管周囲に石灰化は認めなかった。皮膚病変は拡大し、全身の70%に達し、壊死性の痂皮となった。創部の感染症から敗血症に至り、抗生物質とデブリードマンで加療したが、敗血症性ショックにて死亡した。
・カルシフィラキシスに進行したWISN30)
Case 56才女性で受診の67ヵ月前に心房細動に対するアブレーション治療を受けており、その後に下肢痛、出血斑、皮膚壊死、鼠径部および下腹部の硬化を呈した。受診前から投与されていたワルファリンは受診後中止され、2回のデブリードマンが実施されて退院したが、その1ヵ月後にさらなる治療のため再入院を要した。組織学的サンプルよりカルシフィラキシスが示唆された。最初の入院から8ヵ月後に退院した。
WISNとカルシフィラキシスの鑑別には皮膚生検が有用である。両者の治療は異なり、WISNではワルファリンの中止と支持療法が行われる。一方、カルシフィラキシスはその原因によって治療法が異なる。
(6)臨床研究報告
これまでにいくつかの観察研究が報告されている。
OBS Mazharら(2001)69)は、ケースコントロール研究にて、末期腎臓病患者において、カルシフィラキシスに関連する危険因子と死亡率を検討した。カルシフィラキシス診断日にワルファリン投与の症例比率が37%と、対照群の1.8%より高かった。女性はオッズ比6.04、対照群に対して、基準日、基準日前12ヵ月の血清アルブミン値0.1g/dL増加で各々OR=0.79、0.80と有意に低下、基準日前12ヵ月の血清リン値1mg/dL上昇でオッズ比3.51(p=0.052)、基準日のAl-Pが10IU/L増加でオッズ比1.19であった。カルシフィラキシスは死亡リスクをオッズ比8.58で有意に増加させた。
OBS Hayashiら(2012)70)は、ケースコントロール研究にて血液透析患者におけるカルシフィラキシスの危険因子を調査した。日本透析医学会、日本移植学会会員の3760施設にカルシフィラキシスに関する質問票を送付し、1838施設より回答を得て、151施設で249例の患者を確認した。多変量解析では、カルシフィラキシスの予測因子はワルファリン療法、血清アルブミン値低値(1mg/dL低下毎)であった。
3)WISNと類似する疾患「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT: Heparin-Induced Thrombocytopenia)は、へパリン投与に伴う重篤な合併症である。血小板減少を伴うが出血傾向を示すことは稀で、逆に発症患者の多くが血栓塞栓症を伴い、致死性のある重篤な疾患である。
(1)「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」とワルファリン
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT: Heparin-Induced Thrombocytopenia)の適切な診断、治療について、宮田ら(2016)が総説71)にまとめている。
ワルファリンで重要なことは、急性期のHITに対して、ワルファリン単独治療は行わないことである。その理由は、ワルファリン単独投与を行った場合、凝固因子の低下より先に凝固制御因子(プロテインC)が低下することで、逆に一時的に血栓傾向に傾く可能性があり、急性期HIT患者に四肢壊疽を発現するリスクがある。
急性期のHITにおいて過剰に誘導されたトロンビン活性を迅速に抑制するには、選択的抗トロンビン剤であるアルガトロバンなどの抗凝固療法が推奨されている。少なくとも血小板数が回復するまで継続し、回復した時点で、抗トロンビン剤と併用する形でワルファリン投与を開始し、臨床症状が落ち着いた時点でワルファリン単独治療への切り替えを行う。
(2)欧米規制当局の見解
Label, FDA(U.S. Food and Drug Administration)(2016.9)
欧州、SmPC(summary of product characteristics)には記載がない。
(3)臨床研究報告
OBS Warkentin ら(1997)72)は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の患者158例にてHITの病因について検討した。その中で18例が虚血性四肢壊死を発現し、10例が急性動脈血栓症、8例が急性症候性深部静脈血栓症からの静脈四肢壊疽であった。静脈四肢壊疽は8例全例でヘパリンを中止してワルファリンを継続または投与開始後に発生していた。ワルファリン投与例の大部分でトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)の上昇とプロテインC活性の低下が認められた。
代表的症例では、趾先の皮膚壊死、下腿切断を要した静脈四肢壊疽、左脚の静脈壊疽、ビタミンK投与と血漿アフェレーシスを実施した症例などを報告した。
結論としてHITが関連する深部静脈血栓症のワルファリン治療は、おそらくトロンビン生成を制御するプロテインC抗凝固経路の後天的な不全を原因として、静脈四肢壊疽の原因となる可能性を報告した。
(4)症例報告
Srinivasanら(2004)26)は、ワルファリンよる皮膚壊死を発現したヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の6例を報告した。
Case 症例は、大腿に壊死を発現して敗血症で死亡した58才男性、左乳房に斑状出血を伴う壊死を発現した50才女性、静脈性四肢壊疽を発現した55才男性、両乳房の皮膚壊死を発現した53才女性、両下腿の紫斑性病変が壊死へと進展し、両脚は皮膚移植を要した24才女性、そして左乳房、右脚、左足の壊死を発現し、乳房、右脚膝下及び左足の中足部位での切断を要した72才女性であった。
Case 中岡ら(2006)22)は、59才男性、治療抵抗性の急性動脈閉塞症にてHIT及びワルファリン誘因性皮膚壊死の発現症例を報告した。ヘパリン漸増、ワルファリン療法開始も急性動脈閉塞症の症状は改善せず。ワルファリン開始2日目頃より左上肢に壊疽を認め、入院7日目に左上肢は切断となった。HITが疑われ、ヘパリン投与10日後に中止。入院11日目、右下肢に疼痛を伴う腫脹が発現した。HIT type2と診断、ワルファリンを中止した。その後、進行胃がんが発見され、悪性腫瘍が易血栓性の一因と考えられた。
Case 岩崎ら(2009)73)は、42才女性、多発性嚢胞腎があり、慢性腎不全悪化のため透析導入となった症例で、両総腸骨静脈及び下大静脈閉塞・狭細化を認め、ヘパリン持続点滴静注を行うも改善せず、HITを疑った。ヘパリン終了・ワルファリン変更後徐々に潰瘍化、下腿潰瘍を生じた。抗ヘパリン-PF4複合体抗体の測定結果は陽性で、HITと診断された。デブリードマンとスルファジアジン銀外用にてほぼ上皮化した。
Case Nakanishiら(2015)24)は、67才男性、深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症に対する抗凝固療法中にHITに続いてワルファリン誘因性静脈性四肢壊疽を発現し、ヘパリン及びワルファリン中止とアルガトロバン投与開始したが、下肢膝上の切断に至った症例を報告した。
ヘパリンによる重篤なHITの可能性、HIT患者ではワルファリン起因性の重篤な合併症のリスクについて考慮する必要がある。
4)WISNと類似する疾患「その他の疾患」
WISNと類似する疾患1)として、前述のコレステロール結晶塞栓症、カルシフィラキシス及びヘパリン起因性血小板減少症の他には、ほぼ同様の病態を示す先天性プロテインC欠乏症及び先天性プロテインS欠乏症をはじめ、アンチトロンビン欠乏症、抗リン脂質抗体症候群、クリオフィブリノゲン血症、リベド血管炎、膠原病などの合併症に伴う皮膚疾患が報告されている。これらの疾患群では凝固促進状態の病態を伴う皮膚疾患のケースにワルファリンを治療薬として使用する場合もある。病態、病態のステージや治療経過に伴いワルファリンの影響が変化する場合があり、その複雑な状況を想定した注意深い対応が必要である。そのため、WISNとの鑑別など、皮膚疾患の病態を適正に把握することが重要である。
(1)症例報告:アンチトロンビン欠乏症
凝固促進状態の疾患であり、皮膚疾患を伴う様々なケースが報告されている。
Case 静脈瘤結紮、静脈潰瘍術後へのヘパリン、ワルファリン投与開始から皮膚壊死を生じ、アンチトロンビン欠乏症と診断されワルファリンで管理可能となった国内症例3)。
Case 先天性アンチトロンビン欠損症でジピリダモール、ワルファリンを内服中に難治性下腿潰瘍を合併した国内報告74)。
(2)症例報告:抗リン脂質抗体症候群
凝固促進状態の疾患であり、皮膚疾患を伴う様々なケースが報告されている。
Case ベーチェット病と抗リン脂質抗体症候群の合併にて下大静脈閉塞の両側足浮腫及び口腔、陰嚢部等の潰瘍を発現し、ワルファリンとステロイド剤の治療が奏効した国内症例75)。
Case 抗リン脂質抗体症候群、プロティンC欠乏症で血栓症を繰り返し、下肢切断術を要したが、周術期に活性型プロティンC製剤で管理できた国内症例76)。
Case 肺梗塞、深部静脈血栓症、下腿潰瘍を伴う原発性抗リン脂質抗体症候群にて、ワルファリン、プレドニゾロンに加え、ベラプロスト、アルプロスタジルなどで治療したが、何度も皮膚潰瘍を繰り返した国内症例77)。
Case 難治性下腿潰瘍を発現した抗リン脂質抗体症候群に対してワルファリンが奏効した症例78)。
Case 下腿潰瘍を伴う抗リン脂質抗体症候群にステロイド療法及びワルファリン療法が奏効した症例79)。
Case 抗リン脂質抗体症候群で下腿潰瘍を発症し、ワルファリンが奏効した症例80)。
Case 全身性エリスマトーデス(SLE)のステロイド治療後に発現した下肢潰瘍と骨壊死について、合併する抗リン脂質抗体症候群の関与を疑い、ワルファリン療法の実施が完全治癒に貢献した症例81)。
(3)症例報告:クリオフィブリノゲン血症
クリオフィブリノゲン血症は血漿中に可逆的寒冷沈降物が検出される稀な血液疾患であり、紫斑、網状皮斑、皮膚潰瘍、皮膚壊死、壊疽を来たすことがある。
Case 下肢静脈還流不全、クリオフィブリノゲン血症、プロテインC、プロテインS欠乏を合併し、発現した下腿潰瘍に対し、ワルファリン療法継続、寒冷刺激除去、下肢安静、弾性ストッキング装着など局所外用療法が有効であった国内症例82)。
Case クリオフィブリノゲン血症に伴う皮膚壊死にワルファリン療法が奏効した国内症例83)。
Case クリオフィブリノゲン血症に伴う難治性下腿潰瘍にステロイドとワルファリンが奏効した国内症例84)。
(4)症例報告:リベド血管炎
リベド血管炎は下肢の網状皮斑、白色萎縮、有痛性潰瘍を特徴とする凝固異常に関連した慢性再発性の皮膚疾患である
Case リベド血管炎で紅斑や多発した皮膚潰瘍にワルファリンが奏効した国内症例85)。
Case リベド血管炎と診断した5例にワルファリン治療を行い全例で皮膚潰瘍や疼痛が改善したとの報告86)。
Case リベド血管炎にワルファリン長期投与が奏効したとの国内2症例87)。
Case リベド血管炎にワルファリンを長期投与して寛解を得た国内3症例88)。
Case リベド血管炎で発症した有痛性潰瘍にワルファリンが奏効した国内症例89)。
Case リベド血管炎でワルファリンが著効した国内症例90)。
(5)症例報告:その他
その他の皮膚疾患もいくつか報告されている。
Case 自己免疫疾患のシェーグレン症候群と先天性プロテインS欠損症にて下腿潰瘍生じ、ステロイド療法、シクロスポリンによる免疫抑制、ワルファリンによる抗血栓療法で瘢痕治癒した症例91)。
Case 抗セントロメア抗体高値の膠原病に伴う指趾潰瘍の症例にワルファリンが奏効した国内症例92)。
Case 染色体異常の一種であるクラインフェルター症候群に伴う難治性下腿潰瘍に対してワルファリン療法、デブリードマン、ラップ療法により潰瘍部に良性肉芽増加、潰瘍縮小した症例93)。
Case 皮膚結節性多発動脈炎には有効な治療法がないが、抗ホスファチジルセリン-プロトロンビン複合体抗体(抗リン脂質抗体の一種)の関与が示唆され、ワルファリンが奏効した国内症例94,95)。
Case 80才女性で前腕部筋膜下血腫から輸血を要する貧血を発症し、血腫形成が原因で皮膚壊死を発現したとする国内症例96)。
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2021年1月