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  • 公開日時 : 2017/10/17 00:00
  • 更新日時 : 2021/03/08 09:53
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【ワーファリン】 II‐4.2.ワルファリンの臨床成績(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)

【ワーファリン】
 
II‐4.2.ワルファリンの臨床成績(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
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回答

ワルファリンの心房細動に伴う血栓塞栓症に対する臨床研究は、抗血小板薬の代表であるアスピリンと共に1990年代より数多くの臨床試験、観察研究が行われてきた。

 

1)主な臨床試験

・アスピリン群などとの比較試験で有用性が確立

RCTs ワルファリンは非弁膜症性心房細動における血栓塞栓症の予防に有用であることが、AFASAK10)、BAATAF11)、SPINAF12)、CAFA13)、そしてSPAF-Ⅰ14)、Ⅱ15)、Ⅲ16)の大規模臨床試験で認められた。アスピリンについても有効性は認められたが、ワルファリンの方が有効であることが示された。


RCT SPAF-Ⅲ(1996)16)では、血栓塞栓症のリスクが高い心房細動患者を対象に標準用量調節ワルファリン療法群(目標INR 2.0~3.0)と低用量固定ワルファリン(INR 1.2~1.5程度)とアスピリンの併用群で比較した。結果は、標準用量調節ワルファリン療法群の有効性が明らかとなり、試験終了前に中止された。サブ解析17)ではアスピリンとの併用はワルファリン単独服用に比べ、消化管出血のリスクを高めると示唆された。


・75才以上の高齢者での有用性

RCT BAFTA(2007)18)では、心電図で心房細動を認めた75才以上の973例を無作為割付にてワルファリン群(目標INR 2~3)、アスピリン群(75mg/日)で脳卒中予防効果をプロスペクティブに比較した。一次エンドポイントとした脳卒中、他の頭蓋内出血、全身性塞栓症の合計は、ワルファリン群1.8%/年で、アスピリン群3.8%/年に比べ、相対リスク0.48と有意に少なかった。出血、脳出血の発生率では有意差はなかった。


・抗血小板薬2剤と比べられたワルファリン単独群の有用性

RCT ACTIVE W(2006)19)では、脳卒中リスクの高い心房細動患者において無作為割付により、経口抗凝固薬群とクロピドグレル+アスピリン併用群を比べ、経口抗凝固薬群において血管イベント抑制効果が有意に優れていた。


OBS ACTIVE-Wサブ解析(2008)20)では、CHADS2スコア別に解析した。脳梗塞年間発症率では経口抗凝固薬群に対し抗血小板薬併用群の相対リスクはCHADS2スコア=1で2.96、CHADS2スコア>1で1.58といずれも有意に高かった。重大な出血事故は、CHADS2スコア=1では相対リスク1.55と抗血小板薬併用群が有意に高く、CHADS2スコア>1では0.97と有意差はなかった。


OBS ACTIVE-Wサブ解析(2008)21)では、TTR (time in therapeutic range)の影響を事後解析した。経口抗凝固療法群全体のTTRは平均63.4%、中央値65%であり、併用群を上回るベネフィットを得るための目標TTRは58~65%との推定であった。


2)臨床試験のメタ解析

心房細動患者の脳卒中(脳梗塞、脳出血)を一次エンドポイントとして、Hartら(1999)22)は、大規模臨床試験のメタ解析を実施した。さらにHartら(2007)23)は、2007年までの29試験のメタ解析を実施した。また、Andersenら(2008)24)は、全身性塞栓症予防効果に対するメタ解析の結果を報告した。

Meta Hartら(1999)22)の報告では、AFASAK10)、BAATAF11)、SPAF-Ⅰ14)、CAFA13)、SPINAF12)、EAFT25)のメタ解析で、用量調節ワルファリン療法はプラセボに比し脳卒中の相対リスクを62%(95%信頼区間48~72%)低下させた。

一方、アスピリンはAFASAK10)、SPAF-Ⅰ14)、EAFT25)、ESPS-Ⅱ26)、LASAF27)、UK-TIA(Cochraneデータベースより)のメタ解析で、プラセボに比し脳卒中の相対リスクを22%(95%信頼区間2~38%)低下させるに留まった。

AFASAK10)、SPAF-Ⅱ15)、EAFT25)、AFASAK-Ⅱ28)、PATAF29)のメタ解析では、用量調節ワルファリン療法はアスピリンに比べ、脳卒中の相対リスクを36%(95%信頼区間14~52%)低下させた。このメタ解析で、用量調節ワルファリン療法の脳出血、重大な出血(脳出血以外)の相対リスクは各々アスピリンの2.1倍(95%信頼区間1.0~4.6倍)、2.0倍(95%信頼区間1.2~3.4倍)であった。


Meta その後のHartらの報告(2007)23)では、 非弁膜症性心房細動を対象に抗血栓薬を12週以上投与した無作為割付比較試験をデータベースより抽出し、1989年から2007年までの29試験を検討対象とし、メタ解析を行っている。無治療群に対して、用量調節ワルファリン群では、相対リスクにて脳卒中で約60%の有意な低下を示した。一方、アスピリン単独群では、約20%の低下を示した。用量調節ビタミンK拮抗薬(VKA)群と抗血小板薬単剤を直接比較した試験では用量調節VKA群の脳卒中の相対リスクは、抗血小板薬群と比べ37%の有意な低下を示した。また、用量調節VKA群の頭蓋内出血がアスピリン群と比べ有意に高率であり、用量調節ワルファリン群の全死亡が無治療群より有意に低率であった。しかし、頭蓋内出血、頭蓋外の大出血とも、脳梗塞と比べその頻度は低かった。


Meta Andersenら(2008)24)は、心房細動患者でのワルファリンの全身性塞栓症予防効果についてデータベースから抽出した検討期間3ヵ月以上の無作為割付比較試験15試験にてメタ解析を行った。非弁膜症性心房細動においてワルファリンは、プラセボ、抗血小板薬と比べ、脳卒中のみならず全身性塞栓症を減少させた。大出血のリスクはプラセボより増加するが、抗血小板薬とは差がなかった。

 

3)国内の主な臨床研究

INRが高くなると出血性合併症のリスクが高くなることを考慮して、最大のベネフィットが得られる治療域の設定が重要となる。日本人の至適INRは欧米人と異なる可能性が考えられ、いくつかの臨床研究が行われきた。INR 1.5~2.5、1.6~2.6あるいは2~3など、至適INRやその条件などについて報告されている。


・抗血小板薬もしくはワルファリン投与でのイベント発生状況

OBS COOPAT(Cooperative Osaka Platelet Antiaggregation Trial)Study(1996) 30)は、1990年代に実施された国内の臨床研究であり、非弁膜症性心房細動患者にて、抗血小板薬およびワルファリンの症候性脳梗塞、脳出血の発生頻度を検討した。症候性脳梗塞の年間発症率は無投薬群4.5%、抗血小板薬群4.4%、ワルファリン群1.5%で、脳梗塞既往のなかった例に限ると無投薬群は3.7%、抗血小板薬群は3.0%、ワルファリン群ではなかった。


OBS 国内2667例の心房細動患者についての研究報告(2000)31)では、抗血栓療法なし群/アスピリン投与群/チクロピジン投与群/ワルファリン投与群の虚血性イベント発生率は、弁膜症性心房細動では6.3%/6.3%/7.1%/1.5%、非弁膜症性心房細動では3.2%/3.7%/3.8%/1.9%で、弁膜症性心房細動においてワルファリン群が有意に低かった。高齢、脳血管障害既往、非弁膜症性心疾患(特に心筋症)は虚血性イベントの有意な危険因子であった。


・INR治療域を比較した臨床試験

RCT 国内の臨床試験として山口ら(2000)32)は、心筋梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)を起こした115人の非弁膜症性心房細動患者を対象とし、無作為割付により低INR群(INR1.5~2.1)または従来療法群(INR 2.2~3.5)に無作為割付、2群の効果と副作用を比較した。従来療法群では6例で大出血を生じ、低INR群では大出血はなく、年間大出血発生率に有意差が認められた。虚血性発作の年間発生率は従来療法群1.1%、低INR群1.7%と有意差はなかった。6ヵ月以内の虚血性発作既往のある非弁膜症性心房細動例における虚血性発作の二次予防では、INRを低く維持することで安全性が高まると示唆された。


・INR治療域の検討

OBS 矢坂ら(2001)33)は、非弁膜症性心房細動で一過性を含む脳虚血発作の既往を有する患者に対し、虚血性脳卒中の二次予防目的でワルファリンを投与し、至適INRを検討した。山口ら(2000)32)の研究結果と合せると、総症例は203例で虚血性発作または重大な出血事故の年間発生率から日本人の至適INR 1.6~2.6を示した。

 

・国内最大規模となる8000例の臨床研究J-RHYTHM Registry

J-RHYTHM Registryは、国内の心房細動患者に対する抗凝固療法の実態の把握、患者背景に応じた治療法の確立、現在の治療指針をより適切なものにすることを目的とした多施設共同のプロスペクティブな観察研究である。

臨床研究の主要結果34)に加え、至適INR 35)やイベント発生時のINRとイベントとの関連性36)、ワルファリンの投与群と非投与群の分析37)、一次予防と二次予防の分析38)に関する検討結果が報告されており、概略を示す。

他に臨床研究の計画39)、登録患者の背景情報40)、ワルファリン使用の決定因子41)、INRの算出に必要なISIに関す調査42)、コントロール状態とDダイマーとの関係43)、ブコローム併用のワルファリン投与量への影響44)、予後に対する性差との関連45)、弁膜症性心房細動の投与実態と至適INR46)、血栓塞栓症や出血のリスク評価スコアの有用性9)、有用性と年齢差との関係47)、アスピリン併用リスク48)、至適INRの考察と本研究の概要49)など、それぞれのテーマについて報告されている。


OBS 国内最大規模となる約8000例の臨床研究であるJ-RHYTHM Registryでは、 Inoueら(2013) 34)は、非弁膜症性心房細動に対するワルファリン療法の至適INRをプロスペクティブに検討した。対象患者を観察開始時のINRで2年間またはイベント(脳梗塞、TIA、全身性の塞栓症、入院を要する大出血、死亡)発生まで追跡した。INR1.6~2.6が本邦の非弁膜症性心房細動患者の血栓塞栓性イベント予防に有効かつ安全で、INR2.6~2.99は有効であるが大出血リスクがやや上昇すると思われた。


OBS J-RHYTHM Registryにて小谷ら(2013)35)は、至適INRについて検討し、INR1.6~2.59では<1.6、2.6≦よりイベント発生率が低率であること、70才未満と70才以上の層別でも同様にINR1.6~2.59が日本人の至適域である可能性を示した。


OBS J-RHYTHM RegistryにてYamashitaら(2015)36)は、イベント発生時のINRを集計し、虚血性脳卒中と頭蓋内出血との関連性を検討した。虚血性脳卒中のリスクはINR 2.0より低くなると徐々に上昇し、INR 1.6以下で急激に上昇し、頭蓋内出血のリスクはINR 2.5を超えると上昇し、INR 2.5~3.0では明らかにリスクが上昇したとの結果を報告した。


OBS J-RHYTHM RegistryにてChishakiら(2015)37)は、非弁膜症性心房細動患者7406例を対象にプロペンシティスコア・マッチング分析によって、ワルファリンの投与群6404例と非投与群1002例を補正し、血栓塞栓症、大出血等を検討した。分析前、血栓塞栓症の発生率は投与群(1.5%、p<0.001)より非投与群(3.0%)が有意に高く、大出血は投与群(2.1%、p=0.009)より非投与群(0.8%)が低かった。プロペンシティスコアで両群の臨床上の特性をマッチングした(それぞれn=896)。血栓塞栓症の発生率はワルファリンの投与群(0.7%、p<0.001)より非投与群(2.9%)が高かったが、大出血は両群間で有意な差はなかった。ワルファリンの投与群の出血発生率は有意に高まることなく、血栓塞栓症を減少させることが明らかとなった。


OBS J-RHYTHM RegistryにてKodaniら(2015)38)は、虚血性脳卒中/一過性虚血発作(TIA)既往のある二次予防患者と既往のない一次予防患者において、血栓塞栓症/出血イベントとワルファリンの効果を比較した。二次予防患者は一次予防患者に比し、追跡期間の血栓塞栓症率(2.8 vs 1.5%、p=0.004)、大出血率(3.0 vs 1.7%、p=0.006)が高かった。両患者ともに、INR 1.6~2.59の患者はワルファリン非投与患者に比し、イベント率が低かった。虚血性脳卒中/TIA既往のある非弁膜症性心房細動患者では血栓塞栓症と大出血の発生率が高く、一次予防、二次予防ともに、目標INRは1.6~2.59とすべきであると示された。


・イベント発生状況と至適INR

OBS 小野らの報告(2008)50)は、心房細動患者における低強度ワーファリン療法(目標INR1.5~2.5)による脳梗塞予防効果をプロスペクティブに検討し、抗血小板薬より、ワルファリンが有効かつ安全に予防することを示唆した。


OBS 長沼ら(2012)51)は、目標INR1.5~2.5でワルファリンを服用していた70才以上の非弁膜症性心房細動の転帰をレトロスペクティブに調査し、国内での70才以上の患者では、INR1.5~2.5は有効かつ安全と思われた。


OBS 長沼ら(2015)52)は、ワルファリン投与中のCHADS2スコア0~1、65才以上の非弁膜症性心房細動患者(NVAF)382例について後ろ向きコホート研究を実施した。血栓塞栓症と大出血の発生率は共に0.9/100患者・年で血栓塞栓症はすべてPT-INR<2.00であり、大出血はPT-INR≧3.00で顕著に増加した。HAS-BLEDスコア≧3は大出血のリスクがあった。65才以上でCHADS2スコアが0~1のNVAFは、PT-INR 2.00~2.99であれば血栓塞栓症と大出血の発生率は低くなることを示した。

 

・国内の都市共同体での心房細動管理の実態Fushimi AF Registry

OBS Akaoら(2013)53)は、京都市伏見区(人口約28.3万)における心房細動患者の全例登録を目標とし、患者背景や治療の実態調査、予後追跡を目的に開始した。登録患者3183例(対人口比率約1.12%、男性比率59.3%、平均74.2才)で、CHADS2スコアは平均2.09、CHA2DS2-VAScスコアは平均3.43であった。主な合併症は、高血圧(60.6%)、心不全(27.9%)、糖尿病(23.2)、脳卒中既往(19.4)、冠動脈疾患(15.0%)、心筋梗塞(6.4%)、脂質異常(42.4%)、慢性腎疾患(24.6%)であった。ワルファリンの処方は48.5%であった。


OBS Akaoら(2014)54)は、Fushimi AF Registryにて京都市伏見区の心房細動患者3282例をプロスペクティブに追跡し、抗血栓薬の使用実態を調査した。登録時/1年後に経口抗凝固薬は53.1%/54.6%(ワルファリンは50.6%/ 48.4%)であった。ガイドラインの推奨に比べ、ワルファリンは低リスク患者での使用が上回り、高リスク患者での使用が下回っていた。登録時、ワルファリン群で目標域内のINRは54.4%で目標域未満が多かった。1年後、登録時の経口抗凝固薬投与群と非投与群の脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血発作、全身性塞栓症、脳出血を含む出血性合併症の発現率は同等であり、死亡率は経口抗凝固薬投与群が有意に低かった。経口抗凝固薬の使用では心房細動のガイドラインの推奨と臨床使用実態との不一致を示唆したことから、経口抗凝固薬の使用が不適正なことを示した。


OBS Hamataniら(2015) 55)は、Fushimi AF Registryにて心房細動患者3304例を用いて、経口抗凝固薬(ワルファリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)の非投与群での転帰の予測因子を検討した。多変量解析にて高齢(ハザード比(HR) 1.68)、低体重(HR 1.71)、脳卒中/SE/TIA既往(HR 1.70)、心不全(HR 1.59)、慢性腎疾患(HR 1.53)、貧血(HR 2.41)が複合エンドポイントの独立した予測因子であった。 


OBS Yamashitaら(2017) 56)は、Fushimi AF Registryにてリアルワールドの心房細動患者3731例の大規模観察研究(プロスペクティブ、全例登録、コホート研究)により、ワルファリンと比較してDOAC使用の現在の状況や結果を評価した。中央値3.0年の追跡期間中の脳卒中/全身性塞栓症、大出血の件数は、それぞれ224件(2.3%/年)、177件(1.8%/年)であった。2015年にはワルファリン投与 37%、DOAC投与 26%及び経口抗凝固薬非投与36%であった。Cox比例ハザードモデルにて、脳卒中/全身性塞栓症(ハザード比、0.95  95%信頼区間: 0.59-1.51、P=0.82)、大出血(ハザード比、0.82 95%信頼区間0.50-1.36、P=0.45)であり、リアルワールドでは、心房細動患者におけるDOACの使用は、脳卒中/全身性塞栓症、大出血に対して、ワルファリンと比べ有意な相違がなかった。

 


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36)Yamashita,T. et al.: J.Cardiol.,    65,    175(2015)     WF-4180
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42)小谷 英太郎ら: 心電図,    31,    225(2011)    WF-3607
43)Nakatani,Yosuke et al.: Circ.J. ,    76,    317(2012)    WF-3624
44)小谷 英太郎ら: 心電図,    33,    195(2013)    WF-3979
45)Inoue,Hiroshi et al.: Am.J.Cardiol.,    113,     957(2014)    WF-4058
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【更新年月】

2021年1月

 

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