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  • 公開日時 : 2017/10/17 00:00
  • 更新日時 : 2021/03/18 09:18
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【ワーファリン】 II‐3.7.急性冠症候群に心房細動などを合併した患者に対する抗凝固療法の成績(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)

【ワーファリン】 
 
II‐3.7.急性冠症候群に心房細動などを合併した患者に対する抗凝固療法の成績(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
 
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回答

急性冠症候群の中でステント留置などの経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行される患者集団の規模が大きくなり、心房細動や人工弁置換術などの経口抗凝固療法を必要とする疾患を合併した場合の抗血栓療法について大きな課題となっている。

ステント留置などの経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行された患者に対するDAPT療法(アスピリン、クロピドグレル)、心房細動や人工弁置換術などに対しては経口抗凝固療法が選択されることから、出血リスクとベネフィットを考慮し、2剤併用か3剤併用療法か、3剤併用療法の実施期間、2剤併用の薬剤組み合わせ、ステントの種類など、様々な視点から治療方法が検討されてきた。

観察研究による臨床での実態調査のデータは数多く報告されているが、比較試験による十分な検証ができておらず、まだ課題の解決に至っていない。

DAPTの重要な根拠となったSTARSでは、ACSの標準治療のアスピリンの選択を優先する群設定であり、ワルファリンとチエノピリジン系抗血小板薬(クロピドグレルなど)の群については検討されていなかった。その後の検討でも3剤併用に限界があるものの、標準治療であるアスピリンを除くことは困難であった。

いくつかの観察研究53,54,55)で、心房細動などでステント留置術を施行した患者の治療の実態が報告され、経口抗凝固薬とアスピリン以外の抗血小板薬との併用も一つの選択肢の可能性として示唆された。

 

1)主な臨床試験

ワルファリンとチエノピリジン系抗血小板薬(クロピドグレルなど)の併用群と、アスピリン追加の3剤併用群との比較を無作為割付の臨床試験で検討が行われた。

RCT WOEST(2013)6)では、1年以上の経口抗凝固療法を必要とし、経皮的冠動脈手技(PCI)の適応となる重度の冠動脈病変を有する患者を対象とし、無作為割付によりワルファリン(目標は適応による:INR 2.0)+クロピドグレルの2剤併用群、アスピリンを加えた3剤併用群と出血性イベントなどを比較した。2剤併用群では3剤併用群より出血イベント発生率が有意に少なかった。また、副次評価項目(死亡、心筋梗塞、脳卒中、責任血管の再血行再建術、ステント血栓症)についても2剤併用群が3剤併用群より有意に少なかった。


RCT ISAR-TRIPLE(2015)56)では、経口抗凝固薬(フェンプロクモン、ワルファリン)を12ヵ月以上投与中に安定狭心症または急性冠症候群にて薬剤溶出性ステント(DES)を留置した患者を対象とし、無作為割付比較試験にて経口抗凝固薬、クロピドグレル及びアスピリンの3剤併用でクロピドグレルの併用期間が6週の投与群と6ヵ月の投与群で検討した。9ヵ月後の一次評価(死亡+心筋梗塞+ステント血栓症+脳卒中+大出血)の発生率は6週投与群30例9.8%、6ヵ月投与群27例8.8%であり、ハザード比1.14にて有意差はなかった。大出血は6週投与群16例5.3%、6ヵ月投与群12例4.0%であり、ハザード比1.35で有意差はなかった。本研究では、6週間までの3剤療法は6ヵ月の3剤療法に比べて優るものではなかった。


 

2)主な観察研究

最近の観察研究では、日常診療下における成績について大規模な医療情報データベースを用いて検討されるようになってきた。Lambertsら57,58,59)はデンマークにおける全国規模のデータベースを解析した結果を報告している。

OBS Lambertsら(2012)57)の観察研究では、心筋梗塞またはPCIから90日以内の心房細動患者において、ビタミンK拮抗薬+抗血小板薬2剤による3剤併用は、ビタミンK拮抗薬+抗血小板薬の2剤併用より出血リスクが高かった。3剤併用には持続的なリスク増加があり、安全な治療ウィンドウはない。出血リスクを厳密に評価した後のみ行うべきであると報告している。


OBS また、Lambertsら(2013)58)は、心筋梗塞またはPCI施行後の心房細動患者において、経口抗凝固薬+クロピドグレルの2剤併用は3剤併用(経口抗凝固薬+抗血小板薬2剤)に比べ、心筋梗塞または冠動脈死を増加させず、同程度または良好なベネフィットと安全性を示した。出血のリスクは3剤併用と有意差はなかった。またアスピリン+クロピドグレルの2剤併用では脳梗塞のリスクが有意に高かった。


OBS さらにLambertsら(2014)59)は、心房細動を合併したPCI後1年以上経過した安定冠動脈疾患患者において、ビタミンK拮抗薬への抗血小板薬の追加は冠動脈イベントの再発を抑制せず、出血リスクが有意に上昇したことを示した。


OBS AFCAS Registry(2014)60)では、日常診療における心房細動を有する症例に冠動脈ステントを留置した患者について、ビタミンK拮抗薬+アスピリン+クロビドグレル群、アスピリン+クロピドグレル群、ビタミンK拮抗薬+クロピドグレル群をステント留置後1年間追跡した。脳卒中・一過性脳虚血発作、全身性の塞栓症、心筋梗塞、再血管化、ステント血栓を含む脳血管の重大な有害事象の発生率は、3群間で有意差はなかった。また、全死亡率、大出血、軽微な出血、出血全体の発生率も、3群間で有意差はなかった。


OBS Hessら(2015)68)は、急性心筋梗塞で冠動脈ステントを留置した心房細動患者(65才以上)にて抗血小板薬2剤療法群3589例と抗血小板薬2剤にワルファリンを加えた3剤療法群1370例について2年間の追跡で転帰を比較した。2年間の累積の重大な心事故発生率、死亡率、心筋梗塞による再入院率、脳卒中による再入院率はいずれも両群間に有意差はなかった。出血事故および頭蓋内出血事故による再入院の発生率は、いずれも3剤療法群が有意に高かった。


OBS Braunら(2015)69)は、急性冠症候群にて、クロピドグレルより強力な抗血小板薬チガクレロルとワルファリンの併用、ワルファリンとクロピドグレル+アスピリンの3剤併用で、出血及び血栓リスクをレトロスペクティブ(3ヵ月)に比較した。チガクレロルとワルファリンの併用が3剤併用と同様に安全であると報告した。


OBS Sambolaら(2009)70)は、経皮的冠動脈ステント挿入術後の抗血栓療法の実態と有用性を登録研究で検討した。抗凝固薬(ワルファリンまたは低分子量ヘパリン)1剤+抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)2剤の3剤併用(TT)群68.6%、抗凝固薬1剤+抗血小板薬1剤の併用群11.4%、抗血小板薬2剤の併用(DAPT)群20%の3つの群に分類し、6ヵ月間追跡した。抗血栓療法のレジメン、血栓塞栓症リスク、閉塞血管数は、心血管系イベントに有意に関連する独立した因子であった。


OBS Sambolaら(2016)71)は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行の心房細動患者を追跡し、DAPTとDAPT+ビタミンK拮抗薬の3剤併用療法の効果をCHA2DS2-VAScスコア別に比較した。PCIを施行されるCHA2DS2-VAScスコア1点の心房細動患者では、3剤併用療法は血栓塞栓症の予防効果の有意なベネフィットはなく、出血リスクを増大させ、2点以上の患者では3剤併用療法にて出血は増加したが、血栓塞栓症は有意に減少したことを報告した。


OBS Lopezら(2010)61)は、非ST上昇型の急性冠症候群で入院中に心房細動を認めた患者において、ワルファリン投与の6ヵ月死亡率、心筋梗塞発症率への関与について検討した。CHADS2スコアや出血リスクによる差はなかった。6ヵ月の死亡・心筋梗塞発症に対して有意に関連する独立因子は、入院中の冠動脈バイパス術施行(ハザード比0.30)、CHADS2スコア2以上(同3.51)、退院時ワルファリン処方(同0.39)、退院時アスピリン処方(同0.47)であった。

 

(国内報告)

OBS Kawaiら(2015)72)は、心房細動で冠動脈ステント施行した患者にて、手技施行12ヵ月後の抗血栓療法の転帰について国内の多施設共同のレトロスペクティブな観察研究にて検討した。結論では冠動脈ステント留置後の心房細動患者において、DAPTとワルファリン3剤の長期使用は大出血のリスクを有意に上昇させ、大出血の防止に個別化された抗血栓療法が必要であると報告された。


OBS CREDO-Kyoto Registry Cohort-2(2014)62)では、国内の臨床研究として日常診療実態下における初回冠動脈インターベンション後5年間の累積イベント発生率を報告している。心房細動を合併した症例で脳卒中発症率と共に死亡率、大出血発生率、心筋梗塞発症率が有意に高かった。ステント血栓の発症率には差はなかった。

心房細動合併した症例において、脳卒中発症率は経口抗凝固療法の施行有13.8%、施行無で11.8%と差はなかった。INRが目標域内にあった比率TTR 65%以上の群と65%未満の群を比べると、脳卒中発生率では6.9%、15.1%であり、TTR 65%以上の群が有意に低かった。TTR 65%以上の群は死亡率が有意に低く、大出血発生率が低い傾向であり、心筋梗塞、ステント血栓の発生率には差はなかった。

 

3)主なメタ解析

メタ解析については、Singhら63)及びWashamら64)の報告がある。

Meta Singhら(2010)63)は、心房細動や弁置換術後などで長期に抗凝固療法を有する患者のPCI後の抗血栓療法では、アスピリン+クロピドグレル併用療法とアスピリン+クロピドグレル+ワルファリンの3剤療法のどちらが優るかを、6つの臨床試験のメタ解析を行って検討した。大出血では3剤療法が2剤併用療法より有意に多く、重大な心血管性イベントでは3剤療法が2剤併用療法より有意に少なかった。3剤療法は2剤療法に比べ、有効性で有意に優るが、大出血も有意に増加する。


Meta Washamら64)は、観察研究のメタ解析を行い、1~5年後のアスピリン+クロピドグレル併用群とワルファリンを加えた3剤併用群のイベント発生を比較した。イベント発生は群間で全死亡、脳卒中では有意差はなかった。非致死性心筋梗塞、大出血は3剤併用群が有意に高かった。


 
【参考文献】    [文献請求番号]
6)Dewilde.W.J.M. et al.: Lancet,     381,    1107(2013)    WF-3815
53)Ait mokhtar,O. et al.: Cardiovasc.Revasc.Med.,     11,     159(2010)    WF-3367
54)Gao,F. et al.: Circ.J.,     74,     701(2010)    WF-3200
55)Seivani,Y. et al.: Clin.Res.Cardiol.,     102,     799(2013)    WF-4004
56)Fiedler,K.A. et al.: J.Am.Coll.Cardiol.,     65,     1619(2015)    WF-4281
57)Lamberts,M. et al.: Circulation,     126,     1185(2012)    WF-4088
58)Lamberts,M. et al.: J.Am.Coll.Cardiol.,     62,     981(2013)    WF-4005
59)Lamberts,M. et al.: Circulation,     129,     1577(2014)    WF-4089
60)Rubboli,A. et al.: Clin.Cardiol.,     37,     357(2014)     WF-4116
61)Lopes,R.D. et al.: Am.J.Med.,     123,     134(2010)    WF-3498
62)Goto,Koji et al.: Am.J.Cardiol.,     114,     70(2014)    WF-4093
63)Singh,P.P. et al.: Ther.Adv.Cardiovasc.Dis.,     5,     23(2011)     WF-3647
64)Washam,J.B. et al.: J.Thromb.Thrombolysis,        1(2014)    WF-4120
68)Hess,C.N. et al.: J.Am.Coll.Cardiol.,     66,     616(2015)    WF-4237
69)Braun,O.O. et al.: Thromb.Res.,     135,     26(2015)    WF-4332   
70)Sambola,A. et al.: Heart,     95,     1483(2009)    WF-4086
71)Sambola,A. et al.: Circ.J.,     80,     354(2016)    WF-4349
72)Kawai,H. et al.: J.Cardiol.,     65,     197(2015)    WF-4407

【図表あり】
 
【更新年月】
2021年1月
 

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