電子添文「8. 重要な基本的注意」に以下の記載があります。(引用1)
8.1 レビー小体型認知症では、日常生活動作が制限される、あるいは薬物治療を要する程度の錐体外路障害を有する場合、本剤の投与により、錐体外路障害悪化の発現率が高まる傾向がみられていることから、重篤な症状に移行しないよう観察を十分に行い、症状に応じて減量又は中止など適切な処置を行うこと。
レビー小体型認知症患者※1を対象とするアリセプトの第II相、第III相プラセボ対照二重盲検比較試験において、安全性評価項目としてパーキンソン病統一スケール(UPDRS part III※2)の変化が検討されました。合計281例の副次的集計解析では、プラセボ群とアリセプト投与群(3mg、5mg、10mg)のUPDRS part IIIの変化(平均値±SE)は、プラセボ群(-0.2±0.7)、3mg群(-0.6±1.0)、5mg群(-1.2±0.7)、10mg群(-0.2±0.7)であり、有意差は確認されませんでした(t検定)。また、UPDRS part IIIのサブスケールスコアでは、固縮の平均スコア(平均±SD)がプラセボ群(-0.1±0.2)より5mg群(-0.8±0.2)で有意に減少しましたが(p=0.030,t検定)、3mgと10mg群の固縮の項目や他の項目では有意差は確認されていません(t検定)。(引用2)
RCT解析におけるUPDRS part IIIサブスケールスコアの第12週(LOCF)変化(引用2より作図)
※1 CDLBガイドライン臨床診断基準に合致するprobable DLB患者
※2 UPDRS part III(Unified Parkinson's disease rating scale part III):パーキンソン病統一スケール
パーキンソン病を総合的に評価する基準であり、part IIIは運動能力に関する検査14項目を0~4の5段階で評価する。
国内第Ⅱ相および国内第III相臨床試験の試験概要は以下の通りです。
●試験概要:試験概要:レビー小体型認知症を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験(プラセボ対照二重盲検比較試験、用量探索試験)(431試験)(引用3、4、5)
目的:レビー小体型認知症(DLB)患者におけるアリセプトの有効性及び安全性を探索的に検討した。
試験デザイン:国内第Ⅱ相、多施設共同、プラセボ対照、二重盲検、無作為化、並行群間比較試験
対象:レビー小体型認知症患者※3140例
プラセボ群 35例、3mg群 35例、5mg群 33例、10mg群 37例
有効性解析対象例※4 127例 安全性解析対象例 139例を解析対象例とした。
なお、認知症発症の1年以上前にパーキンソン病と診断されている患者、脳卒中、脳腫瘍、統合失調症、てんかん、正常圧水頭症、精神遅滞、意識消失を伴う頭部外傷、残存欠損を伴う脳手術既往歴等の重大な神経・精神疾患を合併している患者は除外した。
※3:probable DLB(第1回国際ワークショップ版診断基準に基づく) MMSE10~26点、CDR0.5以上、改訂版NPI-12 8点以上
※4 PPS
方法:観察期間(2週間)ののち、アリセプトまたはプラセボを1日1回朝、12週間経口投与し、下記項目にて評価した。なお、3mg投与群は3mg/日、5mg投与群は最初の2週間は3mg/日を投与し、その後5mg/日へ増量した。10mg投与群は最初の2週間は3mg/日を投与し、その後4週間は5mg/日、さらにその後10mg/日へ増量した。
評価項目:本試験は探索的試験であり、主要評価項目は選択していない。
有効性評価項目: CIBIC-plus(全般的臨床症状評価)※5、MMSEの投与開始時からの変化量※6、WMS-R注意/集中力指標の合計得点の投与開始時からの変化量※6、NPIー2(幻覚及び認知機能変動)の投与開始時からの変化量、NPI個別項目の投与開始時からの変化量※5
※5:投与開始時、12週、最終 ※6:投与開始時、投与4、8、12週、最終
安全性評価項目:有害事象、副作用、UPDRS partIII(パーキンソン病統一スケール) 等
副作用:プラセボ群15/34例(44.1%)、3mg群16/35例(45.7%)、5mg群16/33例(48.5%)、10mg群16/37例(43.2%)に認められた。主な副作用は、プラセボ群では尿中血陽性3例(8.8%)、下痢、心電図QT延長が各2例(5.9%)、3mg群では徘徊癖、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、血圧上昇が各2例(5.7%)、5mg群では下痢3例(9.1%)、パーキンソニズム、便秘、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、血圧上昇が各2例(6.1%)、10mg群では血中クレアチンホスホキナーゼ増加、白血球減少、転倒・転落が各2例(5.4%)に認められた。重篤な副作用は、プラセボ群の不穏1例、3mg群のくも膜下出血1例であった。死亡は認められなかった。投与中止に至った副作用は、プラセボ群で下痢/血圧低下、不穏、横紋筋融解症、精神症状の悪化が各1例、3mg群でせん妄、不眠症、落ち着きのなさ、くも膜下出血が各1例、10mg群で胃腸障害が1例であった。
●試験概要:レビー小体型認知症を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験(プラセボ対照二重盲検比較試験パート)(341試験)(引用6、7、8)
目的:レビー小体型認知症患者を対象に、MMSEを用いた認知機能及びNPI-2(幻覚、認知機能変動)を用いた精神症状・行動障害を主要評価項目として、アリセプト(5mg/日及び10mg/日12週間投与)のプラセボに対する優越性を検討した。
試験デザイン:国内第Ⅲ相、多施設共同、プラセボ対照、無作為化、並行群間比較試験及びそれに続く継続投与試験
対象:レビー小体型認知症患者※7 142例
プラセボ群46例、5mg群47例、10mg群49例
有効性解析対象例※8 138例
安全性解析対象例 142例
を解析対象例とした。なお、脳卒中、脳腫瘍、統合失調症、てんかん、正常圧水頭症、精神遅滞、意識消失を伴う頭部外傷、残存欠損を伴う脳手術既往歴等の重大な神経・精神疾患を合併している患者は除外した。
※7 probable DLB(第1回国際ワークショップ版診断基準に基づく) MMSE10~26点、CDR0.5以上、改訂版NPI-12 8点以上、NPI - 2 1点以上
※8 FAS
対象:レビー小体型認知症患者142例
方法:アリセプトまたはプラセボを1日1回朝、12週間経口投与した。なお、5mg投与群は最初の2週間は3mgを投与し、その後5mgへ増量した。10mg投与群は最初の2週間は3mgを投与し、その後4週間は5mg、さらにその後10mgへ増量した。
評価項目
有効性評価項目
主要評価項目: MMSEの投与開始時からの変化量(最終)、NPI - 2(幻覚及び認知機能変動)の投与開始時からの変化量(最終)
副次評価項目: NPI-10の投与開始時からの変化量(最終)、NPI個別項目の投与開始時からの変化量(最終)等
安全性評価項目 有害事象、副作用、UPDRS partⅢ(パーキンソン病統一スケール)
副作用
投与12週完了までに、プラセボ群46例中11例(23.9%)、5mg群47例中12例(25.5%)、10mg群49例中14例(28.6%)の副作用が認められた。主な副作用はパーキンソニズムであり、プラセボ群2例(4.3%)、5mg群2例(4.3%)、10mg群4例(8.2%)であった。重篤な副作用は5mg群1例(変形性関節症)に認められた。死亡は認められなかった。投与中止に至った副作用は、プラセボ群1例1件(激越)、5mg群7例15件(体重減少/変形性関節症、頻尿、悪心、不眠症/不安/幻視、易刺激性/激越/妄想症/心電図QT延長、認知障害/パーキンソニズム/幻覚、パーキンソニズム)、10mg群2例2件(血圧上昇、パーキンソニズム)に認められた。
アリセプト錠の効能又は効果は以下の通りです。(引用9)
アルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制
レビー小体型認知症における用法及び用量は以下の通りです。(引用10)
通常、成人にはドネペジル塩酸塩として1日1回3mgから開始し、1~2週間後に5mgに増量し、経口投与する。5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。なお、症状により5mgまで減量できる。
投与開始12週間後までを目安に、認知機能検査、患者及び家族・介護者から自他覚症状の聴取等による有効性評価を行い、認知機能、精神症状・行動障害、日常生活動作等を総合的に
評価してベネフィットがリスクを上回ると判断できない場合は、投与を中止すること。投与開始12週間後までの有効性評価の結果に基づき投与継続を判断した場合であっても、定期的に有効性評価を行い、投与継続の可否を判断すること
【関連情報】
電子添文「9.特定の背景を有する患者に関する注意」に以下の記載があります。(引用11)
9.1.5錐体外路障害(パーキンソン病、パーキンソン症候群等)のある患者
線条体のコリン系神経を亢進することにより、症状を誘発又は増悪する可能性がある。
電子添文「11.副作用」に以下の記載があります。(引用12)
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1重大な副作用
11.1.6錐体外路障害(アルツハイマー型認知症:0.1~1%未満、レビー小体型認知症:9.5%)
寡動、運動失調、ジスキネジア、ジストニア、振戦、不随意運動、歩行異常、姿勢異常、言語障害等の錐体外路障害があらわれることがある。
【引用】
1)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%電子添文 2024年9月改訂(第4版) 8.重要な基本的注意 8.1
2)Mori, E. et al.: Dement.Geriatr.Cogn.Disord. 40,p186-198,2015 [ART-2942] (本研究はエーザイ株式会社の支援を受けて実施されました)
3)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%製品情報概要 臨床成績 レビー小体型認知症を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験 p12 (ART1692CSG)
4)レビー小体型認知症を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験(431試験)(承認時評価資料)
5)Mori, E. et al.: Ann. Neurol., 72(1), 41-52(2012)[文献請求番号 ART-2536]
[利益相反:本試験はエーザイ(株)が支援した。著者にエーザイ(株)から金銭を受け取った者が含まれる。]
6)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%製品情報概要 臨床成績 レビー小体型認知症を対象とした国内第III相プラセボ対照二重盲検比較試験 p16 (ART1692CSG)
7)レビー小体型認知症を対象とした国内第Ⅲ相臨床試験(341試験)(承認時評価資料)
8)Ikeda, M. et al.: Alzheimers Res. Ther., 7(4), 1-10(2015)[文献請求番号 ART-2877]
[利益相反:著者にエーザイ(株)から金銭を受け取った者が含まれる。]
9)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%電子添文 2024年9月改訂(第4版) 4.効能又は効果
10)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%電子添文 2024年9月改訂(第4版) 6.用法及び用量
11)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%電子添文 2024年9月改訂(第4版) 9.特定の背景を有する患者に関する注意 9.1.5 錐体外路障害(パーキンソン病、パーキンソン症候群等)のある患者
12)アリセプト錠3mg・5mg・10mg・細粒0.5%・D錠3mg・5mg・10mg・内服ゼリー3mg・5mg・10mg・ドライシロップ1%電子添文 2024年9月改訂(第4版) 11.副作用 11.1重大な副作用 11.1.6 錐体外路障害
【更新年月】
2024年12月
【図表あり】