[相互作用を示す薬剤名(代表的商品名)]
〔薬効分類 114 解熱鎮痛消炎剤〕
[相互作用の内容]
本剤の作用を増強する。
【アスピリン、サリチルアミド、サリチル酸ナトリウムの添付文書に併用注意の記載がある】
[併用時の注意]
本剤とサリチル酸類(アスピリンを含む)の相互作用は明らかで、臨床上問題になる可能性が高い。
消炎鎮痛を目的とする場合は、できるだけ併用は避けた方がよい。
出血のリスクはあるが、いくつかの大規模試験にて抗血栓療法の利点が示されている。やむを得ず併用する時は、サリチル酸類の投与量は少量にし(アスピリンの場合81mg/日)、血液凝固能を定期的に検査すること。
また、血小板凝集能低下や胃腸出血などのサリチル酸類の副作用に留意すること。
[相互作用の機序]
サリチル酸類の血小板凝集抑制作用による1)。
アスピリンの副作用である消化管出血を助長する2)。
アスピリン大量投与時の肝での凝固因子合成阻害による3)。
サリチル酸類が本剤を血漿蛋白の結合部位から遊離させる4)。
[相互作用の事例]
<臨床研究報告>5)【アスピリンによる出血の増強】
人工弁置換術を行った患者にワルファリンを単独(183例)またはアスピリン500mg/日併用(170例)で投与し、追跡調査を行った。出血事故はワルファリン単独群9例、アスピリン併用群23例で発生した。患者100人当り年間出血事故発生率はワルファリン単独の1.8件と比べ、アスピリン併用群では6.6件と有意に多かった。(海外)
<臨床研究報告>1)【アスピリンによるワルファリンの作用増強】
健康成人男子にワルファリンを連続投与して抗凝固効果を安定させた後に、ワルファリンとアスピリン(1.95g/日分3)を7日間併用した。11名中4名で、アスピリン併用前に比べプロトロンビン活性が有意に低下した。また、出血時間は有意に延長し、血小板凝集能は有意に低下した。
ワルファリン投与で安定した抗凝固効果を得ている4例で、ワルファリンとアスピリン3.9g/日を7日間併用すると、アスピリン併用前に比べ、全例でプロトロンビン活性が有意に低下し、出血傾向を示した。(海外)
<臨床研究報告>6)【アスピリン、相互作用なし】
健康成人男子でワルファリンと低用量アスピリン(75mg/日)を併用した。併用時、胃腸出血は生じず、INRにも影響は認められなかった。(海外)
サリチル酸類とワルファリンの相互作用は、経口投与だけでなく、軟膏剤塗布時でも生じる。
<症例報告事例>7)【サリチル酸メチルによるワルファリンの作用増強】
85才女性。肺塞栓後にワルファリンを服用し、プロトロンビン時間はコントロール比1.5倍であった。関節痛に対しサリチル酸メチル軟膏を大量に塗りはじめた。1週間後、プロトロンビン時間はサリチル酸メチル塗布前の18.5秒から55秒に延長し、斑状出血と性器出血が生じた。(海外)
<症例報告事例>8)【サリチル酸エステルによるワルファリンの作用増強】
(症例1)25才男性。リウマチ性心疾患のためワルファリン2mg/日を服用していたが、右ふくらはぎ腫脹を訴え来院した。歯肉出血と左脚血腫を認めた。患者はサリチル酸エステル含有塗付剤を使用していた。INRは16で、血中サリチル酸エステル濃度は3.3μg/dLであった。
(症例2)57才女性。僧帽弁置換術後ワルファリン2.5 mg/日を服用し、INR 2.0~2.5で安定していた。歯肉出血が現れ来院した。INRは3.5に上昇していた。患者はサリチル酸エステル含有塗付剤を使用しており、血中サリチル酸エステル濃度は8.8μg/dLであった。(海外)
<症例報告事例>9)【サリチル酸メチルによるワルファリンの作用増強】
22才女性。上大静脈血栓の既往があり、ワルファリン62.5mg/週を服用し、INRは2.4-4.0に安定していた。両膝痛にサリチル酸メチル0.05%含有ゲルを8日間使用した後、INRが12.2に上昇していた。ビタミンK1 2.5mgを経口投与した。さらにワルファリン服用を1回休薬し、サリチル酸メチル含有ゲルの使用禁止を指示した。翌日、INRは5に低下した。ワルファリンはもう1回休薬した後、従前の用量で再開した。その6日後のINRは2.3であった。(海外)
<臨床研究報告>10)【アスピリンによる出血の増強】
65才以上で心房細動にてワルファリンを処方され退院した患者を抽出した。10093例が検討対象の基準に合致し、内1962例(19.4%)で抗血小板薬(アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル)が併用されており、8131例(80.6%)では抗血小板薬併用はなかった。抗血小板薬併用群は非併用群に比し男性患者比率、冠疾患、高血圧、うっ血性心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作既往歴を有する患者の比率が有意に高かった。抗血小板薬の併用は女性、高齢者、ワルファリン投与歴のある患者、痴呆症患者、癌患者、終末期患者、抗生物質投与患者で有意に少なく、冠疾患患者、NSAID投与患者で有意に多かった。退院後90日以内に重大な出血事故を来たしたのは、抗血小板薬併用群では1.9%、非併用群では1.3%であった(オッズ比146、95%信頼区間0.998~2.12)。脳出血発生率は抗血小板薬併用群のほうが約3倍であった。90日以内の重大な出血事故発生の危険因子は、女性、高齢者、貧血、出血既往歴、抗血小板薬併用であった。(海外)
【参考文献】 [文献請求番号]
1)O’Reilly RA et al.: Ann. N.Y. Acad. Sci., 179, 173(1971) WF-0716
2)USP-DI,22nd ed.,Vol.Ⅰ, 265(2002) WF-1157
3)Stockley IH: Drug Interactions 5th ed.
(Blackwell Scientific Publications, Oxford), 217(1999) WF-1422
4)Wong LT et al.: J. Pharm. Pharmacol., 30, 240(1978) WF-1353
5)Chesebro JH et al.: Am. J. Cardiol., 51, 1537(1983) WF-0469
6)Prichard PJ et al.: Br. Med. J., 298, 493(1989) WF-0841
7)Littleton F Jr.: JAMA, 263, 2888(1990) WF-0553
8)Ramanathan M: Med. J. Malaysia, 50, 278(1995) WF-1047
9)Joss JD et al.: Ann. Pharmacother., 34, 729(2000) WF-1256
10)Shireman TI et al.,: Stroke, 35, 2362(2004) WF-2035