ワルファリンによる肝障害の発生機序は、直接的な肝毒性ではなく、アレルギーに起因すると考えられている。また、ワルファリンによる肝障害の頻度は少ないとの報告1,2,3)があるが、血清トランスアミナーゼAST(GOT)、ALT(GPT)の著明な増加を認めた重篤例もある4)。
上塚ら4)は、38才男性が僧帽弁置換術の翌日からワルファリン投与を開始し、術後12日目より発熱を認め、その後の症状と検査値からワルファリンによると思われる劇症肝炎と判断して、4回にわたる血漿交換療法により救命した。さらに肝機能が改善した約1ヵ月後にワルファリン再投与にて、再度血清トランスアミナーゼ上昇を認め、ワルファリンによる肝炎と確定している。
Takaseら5)の報告では、肝障害についてワルファリンとチクロピジンの関連性を検討するため、どちらかの薬剤を投与している162例の患者を調査している。併用例は132例でその中に高度の胆汁うっ滞を認めて薬剤性肝障害を有していたのは4例であった。リンパ球刺激試験(LST)では、チクロピジン陽性が3例でうち2例はワルファリンも陽性であった。
治療上良く併用されるチクロピジンでは重篤な肝障害が報告されているので、肝機能の変動には注意が必要である。
48才男性でチクロピジン併用中に認められた肝内胆汁うっ滞を認めた症例の報告6)がある。56才男性で生体肝移植にて救命できた亜急性劇症肝炎の症例について報告7)がある。海外では37才女性の肝機能障害について別の経口抗凝固薬アセノクマロール(本邦販売なし)に変更して正常化した症例の報告8)がある。
38才時に機械人工弁置換術を施行した症例でワルファリンアレルギーによる肝障害と診断され、ヘパリン皮下注療法を続けていた。2回の脳血栓塞栓症、腎梗塞、脾梗塞の発症や左房内血栓が検出されるなどで十分な血栓塞栓症の予防が達成できなかった。その後、インダンジオン系抗凝固薬療法(本邦販売なし)に切り替え、良好な経過が得られた国内の事例が報告されている9)。
重篤な肝機能障害を生じた場合の処置
ワルファリンを起因薬剤と確定した場合は、他剤に変更する必要がある。
一般にヘパリンなどの抗凝固薬、またはアスピリンなどの抗血小板薬が代替薬として選択される。しかし、人工弁置換術後の抗血栓療法、脳梗塞の既往のある心房細動や再発性の高い血栓塞栓症であり長期投与が必要な状況では、ワルファリン以外の薬剤による治療が困難な場合がある。
ワルファリンとの因果関係が確定していない時点で抗血栓療法を中断することが難しい場合は、慎重に肝機能検査を行いつつ減量するなど継続投与も考えられる。ただし、重症化して症状の悪化など異常が認められた場合、あるいは慢性化が問題となる場合には、投与を中止する必要がある。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Adler E et al.: Arch. Intern. Med., 146, 1837(1986) WF-0313
2)高瀬 幸次郎ら: 肝臓, 27, 1728(1986) WF-0334
3)Rehnqvist N: Acta Med. Scand., 204, 335(1978) WF-0617
4)上塚 芳郎ら: ICUとCCU, 11, 971(1987) WF-0514
5)Takase K et al.: 三重医学, 40, 27(1990) WF-0559
6)高瀬 幸次郎ら: 診断と治療, 84(S-1) 485(1996) WF-0987
7)西野 謙ら: 第82回日本消化器病学会中国支部例会, 65(2004) WF-1939
8)Amitrano L et al. : Dig. Liver Dis., 35, 61(2003) WF-1624
9)岩出 和徳ら: 日本血栓止血学会誌, 9, 317(1998) WF-2271
【更新年月】
2021年1月