1.臨床試験
RCT Bridge Study(2015)1)では、米国胸部専門医学会(ACCP)ガイドライン(2012)「抗血栓療法の周術期の管理」2)を作成したDouketisらが待機的手術または侵襲的処置のためにワルファリン治療の中断を要する心房細動患者を対象に低分子量ヘパリンによるブリッジング抗凝固療法の非実施群と実施群を比較するため、プラセボ対照の無作為二重盲検試験を実施した。術後30日間の追跡調査で動脈血栓塞栓症(脳卒中、全身塞栓症、一過性虚血発作(TIA))の発生率はブリッジング非実施群0.4%、実施群0.3%(リスク差0.1パーセントポイント、95%信頼区間-0.6~+0.8、非劣性検定p=0.01)、大出血の発生率はそれぞれ1.3%、3.2%であった(相対リスク0.41、95%信頼区間+0.20~+0.78、優位性検定p=0.005)。非実施群は実施群に比べ、動脈血栓塞栓症予防において非劣性であり、大出血リスクを低減することが示された。
RCT COMPARE(2014)3)は、脳梗塞の高リスクの心房細動患者でのカテーテル・アブレーション施行において無作為試験を実施した。周術期血栓塞栓症は低分子量ヘパリンによるブリッジング群4.9%、ワルファリン継続群0.25%であり、ブリッジング群が有意に強い予測因子であった(オッズ比13、95%信頼区間3.1~55.6、p<0.001)。
RCT BRUISE CONTROL(2013)4)では、血栓塞栓症を年間5%以上のリスクと予測される患者のワルファリン治療中におけるペースメーカー・植込み型除細動器の手術施行にて、ワルファリン継続群とヘパリンによるブリッジング群を比較するため無作為単盲検試験を実施した。臨床的に重要なデバイスポケットの血腫はブリッジング群(16%)に比べ継続群(3.5%)が有意に頻度が低かった(相対リスク 0.19、95%信頼区間+0.10~+0.36、p<0.001)。
2.観察研究
OBS ORBIT-AF(2015)5)では、心房細動の外来患者における観血的手技施行時の経口抗凝固療法中断中のブリッジングの使用とその結果について前向き観察研究を行った。ブリッジングは経口抗凝固療法中断中の患者の約1/4で行われ、出血及び有害事象のリスク増加に関連しているとの結果を報告した。
OBS Clarkら(2015)6)は、静脈血栓症既往の患者での手術手技にてワルファリン療法中断でブリッジングの有無における臨床的に問題となる出血と静脈血栓症再発について検討した。侵襲的手技のためのワルファリン一時中断中のブリッジングは出血リスクと関連していた。再発に有意差はなく、大部分の患者でブリッジングが不要と考えられるが、再発高リスク、手技の特徴の同定について更なる検討が必要と報告した。
OBS AFCAS(2012)7)では、心房細動患者でのPCI施行における経口抗凝固療法について観察研究で検討した。継続投与群はヘパリンブリッジング群と比べ、出血、心脳血管イベントのリスクを増加することなく、周術期INRと関連ないとの結果であった。
OBS Skeithら(2012)8)は、ワルファリン療法の静脈血栓塞栓症の患者における保守的な周術期管理(手技5日前のワルファリン中断と低分子量ヘパリンによるブリッジング)の有効性と安全性を評価するためにコホート研究を実施した。保守的な管理は有望と考えるが、最終的な結論を得るには無作為試験が必要と報告した。
OBS Tafurら(2012)9) は、周術期管理に患者固有の血栓塞栓症リスク及び出血リスクを評価するためにコホート研究を実施した。大出血はヘパリンブリッジングを行われた患者で有意に高頻度であった(3% vs 1%、p=0.017)。大出血の独立した予測因子は、僧房弁置換術、活動性の癌、出血の既往、術後24時間以内のヘパリン再開であった。周術期出血の誘発因子は主として患者特異的であり、早すぎるヘパリン再開は回避可能な特異的因子であることなどを報告した。
OBS Tafur ら(2012)10)は、ワルファリン、低分子量ヘパリンの長期投与中に観血的手技、手術を要した活動性癌患者と非癌患者を3ヵ月追跡し、血栓塞栓症、大出血の発生率を比較した。静脈血栓塞栓症、動脈血栓塞栓症、大出血の発生率を比較したが、いずれも有意差はなかった。ヘパリン置換の有無は死亡率に影響せず、抗凝固療法中の癌患者は静脈血栓塞栓症、大出血のリスクが高いことなど報告した。
OBS Broderickら(2011)11)は、虚血性脳卒中発症患者にて発症60日以内の抗血栓薬の中断との関連を患者記録から中断理由などを検討した。抗血栓薬(ワルファリン)服用中に発症49.3%(8.2%)がしており、中断中の発症は5.2%に関連していた。中断の理由は、手技施行が47.4%で、次いでコンプライアンスなしが16.7%などであった。
OBS Jafferら(2010)12)は、観察研究を実施し、周術期の抗凝固療法のブリッジングのデータとして患者や手技の特徴、抗凝固療法の管理、血栓塞栓症と出血などを収集した。周術期管理は多岐にわたり、患者の臨床的特徴のみでは説明できなかった。出血リスクはヘパリン/低分子量ヘパリンの術後投与量と関連したと報告した。
OBS Pengoら(2009)13)は、侵襲的治療または手術を行った外来患者にて、低分子量ヘパリンの個別化ブリッジング・プロトコールの有効性と安全性を検討し、血栓塞栓症リスクに応じて調整したプロトコールの実現可能性を報告した。
OBS Karjalainenら(2008)14)は、ワルファリン療法中の患者に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)施行時において、ワルファリン継続群と中止群に分け、比較した。継続にて過度の出血もなく安全に手技を施行できた。
OBS Garciaら (2008)15)は、小手技でのワルファリンの中断による血栓塞栓症及び出血リスクについてプロスペクティブコホート研究を実施した。5日以内の中断が血栓塞栓症の低リスクと関連していると報告した。
3.メタアナリシス
Meta Siegalら(2012)16)は、待機的手術のためビタミンK拮抗薬を中止してヘパリン(未分画ヘパリン、低分子量ヘパリン)に置換した研究を2001~2010年の範囲で抽出し、選択基準に合致した無作為化比較試験1件を含む34件にてプール解析を行った。ヘパリン置換の7118例において、血栓塞栓症性は73例0.9%に発生した。ヘパリン置換なし5160例での血栓塞栓症発生は32例0.6%であった。ヘパリン置換群と非ヘパリン置換群の血栓塞栓症リスクを比較した研究8件では、群間に有意差を認めなかった(オッズ比0.80)。13件ではヘパリン置換と出血リスク増加との関連を認め(オッズ比5.40)、5件では大出血との関連を認めた(オッズ比3.60)。低分子量ヘパリン置換を治療的投与量で行った群と予防的/間欠的投与で行った群との比較では、血栓塞栓症性に有意な群間差は認めなかった(オッズ比0.30)が、治療的投与量群で出血全体の有意なリスク増加が認められた(オッズ比2.28)。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Douketis,J.D. et al.: N.Engl.J.Med., 373, 823(2015) WF-4284
2)Douketis,J.D. et al.: Chest, 141, e326S(2012) WF-3661
3)Di Biase,L. et al.: Circulation, 129, 2638(2014) WF-4439
4)Birnie,D.H. et al.: N.Engl.J.Med., 368, 2084(2013) WF-4235
6)Clark,N.P. et al.: JAMA Intern.Med., 175, 1163(2015) WF-4589
7)Lahtela,H. et al.: Circ.J., 76, 1363(2012) WF-4596
8)Skeith,L. et al.: J.Thromb.Haemost., 10, 2298(2012) WF-4279
9)Tafur,A.J. et al.: J.Thromb.Haemost., 10, 261(2012) WF-4144
10)Tafur,A.J. et al.: Ann.Oncol., 23, 1998(2012) WF-3774
11)Broderick,J.P. et al.: Stroke, 42, 2509(2011) WF-4245
12)Jaffer,A.K. et al.: Am.J.Med., 123, 141(2010) WF-4188
13)Pengo,V. et al.: Circulation, 119, 2920(2009) WF-4139
14)Karjalainen,P.P. et al.: Eur.Heart J., 29, 1001(2008) WF-2799
15)Garcia,D.A. et al.: Arch.Intern.Med., 168, 63(2008) WF-2743
16)Siegal,D. et al.: Circulation, 126, 1630(2012) WF-4112
【更新年月】
2021年1月