• No : 2446
  • 公開日時 : 2018/04/27 00:00
  • 更新日時 : 2021/03/18 09:02
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【ワーファリン】 II‐1.3.血液凝固の制御系(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)

【ワーファリン】 
 
II‐1.3.血液凝固の制御系(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
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回答

血液凝固の活性化は、制御系により抑制されることが知られている。

主な制御系として以下の3つが重要である。

 

 

1)アンチトロンビンによるトロンビンなどの活性化凝固因子の阻害作用

アンチトロンビンは、セルピンとして知られ、セリンプロテアーゼインヒビターの一員であり、プロテアーゼインヒビターによる凝固制御系において中心的な役割を果たす。トロンビンのほか活性化凝固第Ⅹ因子(FXa)、活性化凝固第?因子(FXIa)、活性化凝固第?因子(FXIIa)、カリクレインなどほとんどの活性型凝固因子に対して阻害活性を有するが、血漿中には他のセルピンも共存しており、アンチトロンビンは主にトロンビン、FXa、FXIaの制御に働いていると考えられる。また、ヘパリン結合領域にヘパリン類(未分画ヘパリン、低分子量ヘパリン、ペンタサッカライド、ヘパラン硫酸)が結合するとアンチトロンビンは動的な構造変化を起こし、反応速度が格段に早くなる。

  「日本血栓止血学会 用語集 http://www.jsth.org/glossary/ (参照2018-1-15)」

(「Ⅶ-2.アンチトロンビン(AT)とAT欠損症・異常症」の項 参照)

 

2)トロンボモジュリン-プロテインC/プロテインS系によるフィードバック機構

プロテインCは血小板内皮細胞上にある血管内皮細胞プロテインC受容体に結合し、トロンボモジュリン(TM)に結合したトロンビンにより活性化プロテインCに変換される。APCは血漿タンパク質プロテインSの存在下で活性化凝固第Ⅴ因子と活性化凝固第Ⅷ因子を分解不活化する。これによりトロンビン形成が抑制され凝固系が負に制御される。

TMに結合したトロンビンは、遊離型トロンビンがもつ凝固促進活性(フィブリン生成、凝固第Ⅴ因子・凝固第Ⅷ因子・凝固第ⅩⅢ因子の活性化、血小板の活性化など)を消失する。また、トロンビン・トロンボモジュリン複合体は抗凝固活性を有するプロテアーゼ前駆体のプロテインCの活性化を促進する。

  「日本血栓止血学会 用語集 http://www.jsth.org/glossary/ (参照2018-1-15)」

(「Ⅶ-1.プロテインC(プロテインSを含む)とその異常症」の項 参照)

 

3)組織因子経路インヒビターによる組織因子・活性化凝固第Ⅶ因子複合体の不活性化

組織因子経路インヒビター(TFPI)は活性化凝固第Ⅹ因子(FXa)と組織因子(TF)・活性化凝固第Ⅶ因子(FⅦa)複合体と結合し、外因系凝固反応を抑制する。

血液凝固反応の開始時は、まず少量存在するFⅦaがTFに結合し、TF・FⅦa複合体が形成され、これが凝固第Ⅹ因子や凝固第Ⅸ因子を活性化する。こうして生成したFXaが少量のトロンビンを産生し、このトロンビンが凝固第Ⅴ因子、凝固第Ⅷ因子、凝固第?因子などをフィードバック活性化することにより凝固系が増幅され、大量のトロンビンが形成すると考えられている。TFPIはFⅦa-TF複合体とFXaの両方を阻害できることから、TFPIは少量のFVIIa-TF複合体が凝固第Ⅹ因子を活性化する初期の凝固反応に働き、効率良く反応を負に制御すると考えられている

  「日本血栓止血学会 用語集 http://www.jsth.org/glossary/ (参照2018-1-15)」


4)関連する用語

【セルピン(serpin)】 セルピンとはセリンプロテアーゼインヒビターの遺伝子スーパーファミリーであり、血液凝固系セリンプロテアーゼを阻害する。セルピンとしてはアンチトロンビンやヘパリンコファクターⅡなどが知られている。


【トロンボモジュリン】 トロンボモジュリン(TM)は主に血管内皮細胞、気道や腸管の粘膜上皮細胞などに存在する高親和性トロンビン受容体である。TMは、抗凝固作用、線溶調節作用、抗炎症作用など多彩な活性を有する。


【血管内皮細胞プロテインC受容体:EPCR (endothelial cell protein C receptor)】

血液凝固経路の作動時において、血管内皮上に形成されるトロンビンとトロンボモジュリン(TM)複合体により、プロテインCが活性化される。活性化プロテインCは活性化血液凝固第Ⅷa因子およびⅤaを分解して不活化し、血液凝固反応を抑制制御する。血管内皮細胞プロテインC受容体はこの活性化反応を著しく促進する。


【組織因子:TF (tissue factor)】 組織因子(TF)は凝固第Ⅶ因子あるいは活性化凝固第Ⅶ因子(FⅦa)と複合体を形成して凝固第Ⅸ因子および凝固第Ⅹ因子を活性化する外因系凝固反応の開始因子である。TFは通常、血管外組織や血管内皮下の細胞などに発現しており、血管傷害で血液が流出した際は直ちに血中の第Ⅶ/Ⅶa因子と結合して凝固プロテアーゼ活性化のカスケード反応を開始させる。


【組織因子経路インヒビター:TFPI(tissue factor pathway inhibitor)】 組織因子経路インヒビター(TFPI)は、血液中に存在する生理的な抗凝固因子として発見されたセリンプロテアーゼインヒビターであり、活性化凝固第Ⅹ因子並びに組織因子・活性化凝固第Ⅶ因子複合体と結合して、外因系凝固反応を抑制する。

  「日本血栓止血学会 用語集 http://www.jsth.org/glossary/ (参照2018-1-15)」

【図表あり】
 
【更新年月】
2021年1月