[相互作用を示す薬剤名(代表的商品名)]
〔薬効分類 613 主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの〕
[相互作用の内容]
本剤の作用を増強する。
抗生物質投与中のビタミンK欠乏症は多数報告されている。特に、その構造にNMTT(N-メチルチオテトラゾール)基を持つ抗生物質は、投与中の出血傾向の報告が多い(NMTT基はビタミンK依存性凝固因子合成過程でビタミンK利用障害作用を有することが認められている)。但し、NMTT基を有さない抗生剤での出血傾向も報告されている。
【セフィキシム、セフジニル、セファゾリン、セフチゾキシムの添付文書に併用注意の記載がある】
[併用時の注意]
本剤の作用を増強するので、血液凝固能の変動に注意し、本剤を減量するなど、慎重に投与すること。
セフェム系抗生物質でのビタミンK欠乏・不足は多く報告されているので、慎重に投与すること。
本剤投与中の患者での低プロトロンビン血症は抗生物質によっても増強されることを念頭におかねばならない(通常経口摂取ができれば、ビタミンK欠乏状態の起こることは稀である)。
ビタミンK欠乏症を発症する危険因子として、
<抗生物質>
①広域スペクトル抗生物質(ビタミンK産生グラム陰性桿菌の抑制)
②胆汁移行率の良い薬剤1)
③肝・腎毒性の強い抗生物質
④NMTT基(N-メチルチオテトラゾール側鎖)を有する抗生物質2)
<患者側>
①経口摂取不可能(食事からのビタミンK補給不足)3)
②下痢(ビタミンK吸収阻害)1,4)
③肝障害(ビタミンK利用障害)5)
④高齢者(ビタミンK利用障害)6)
⑤腎不全(経口摂取不可能症例が多く、薬剤の代謝・排泄が障害されているため)7,8)
などがあげられる。(以上全般の参考文献)9)
これらの患者に本剤と広域スペクトル抗生物質を併用すると、早ければ2~3日以内にも血液凝固能の変動があらわれてくることがあるので、患者の臨床症状(出血症状)や血液凝固能に注意すること。
広域スペクトル抗生物質併用時は、NMTT基のない抗生物質のほうが良いと思われる(しかし、NMTT基のない抗生物質でもビタミンK欠乏は生じるので、この場合にも同様の注意を必ず払うこと)。
また、血小板凝集抑制作用のある抗生物質及び血小板減少症の副作用の頻度が高い抗生物質との併用には、特に注意すること。
[相互作用の機序]10,11,12,13)
ビタミンK産生腸内細菌を抑制してビタミンK産生を抑制する(注射剤の場合は、胆汁中に排泄されることによる)。
肝細胞のビタミンK依存性凝固因子の生成を阻害する。
腸管からのビタミンK吸収を阻害する。
[相互作用の事例]
<臨床研究報告>14)【セファマンドール(NMTT基あり、本邦販売なし)によるワルファリンの作用増強】
人工弁置換術後感染予防にセファマンドールを投与した44例とバンコマイシンを投与した16例で、ワルファリン投与開始48時間後のプロトロンビン時間を検討した。セファマンドール群の14例(44%)でプロトロンビン時間が32秒以上に過剰に延長していた。バンコマイシン群では1例(6%)のみと有意に少なかった。(海外)
<臨床研究報告>15)【セファマンドール(NMTT基あり、本邦販売なし)、セファゾリンによるワルファリンの作用増強】
人工弁置換術後の感染予防にセファマンドールを投与した患者20例では、術後4日目朝のワルファリン投与8時間前に比し、ワルファリン開始3日目朝(ワルファリン2回投与後)のプロトロンビン活性は64%低下し、6例でプロトロンビン時間が30秒以上に延長していた。セファゾリンまたはバンコマイシンを投与した例(各20例)では各々51.1%、44.6%の活性低下で、プロトロンビン時間が30秒以上の症例も各1例であった。(海外)
<症例報告事例>16)
【セフォペラゾン/スルバクタム(NMTT基あり)によるワルファリンの作用増強】
セフォペラゾン/スルバクタムによりワルファリンの抗凝固作用が著しく増強され、ワルファリンを休薬した症例報告がある。出血は認めなかった。<2005年3月の日本薬学会第125年会の学会抄録>
[セフェム系抗生物質による血液凝固能異常の事例]
<基礎研究報告>10)【NMTT基による低プロトロンビン血症】
セファマンドール、ラタモキセフ、セフォペラゾンはin vitroで2μmol/mLでもグルタミン酸のγカルボキシル化(Gla化)を阻害しないが、NMTT自体はグルタミン酸のGla化を濃度依存的に阻害し、IC50は1.1μmol/mLであった。抗生物質が生体内で分解されてNMTT基を遊離し、グルタミン酸のGla化を阻害して、低プロトロンビン血症を来すと考えられる。
<基礎研究報告>11)
【セフォペラゾン、ラタモキセフ、セフメタゾール(NMTT基あり)による血液凝固能異常】
家兎にセフォペラゾンを連日静注すると、血液凝固活性が低下し、ビタミンK2投与で急速に回復した。ビタミンK欠乏餌飼育マウスに、ラタモキセフ、セフォペラゾン、セフメタゾール、セフメノキシムを連日筋注すると、ヘパプラスチンテストの凝固時間が延長した。コントロール、セフォタキシム投与では不変であった。NMTTをビタミンK欠乏餌飼育マウスに投与すると、ヘパプラスチンテスト凝固時間は著しく延長した。
<症例報告事例>17)【セファマンドール(NMTT基あり)による血液凝固能異常】
セファマンドール投与中に、プロトロンビン時間と活性化部分トロンボプラスチン時間の延長、出血傾向を認めた7症例を報告した。何れもビタミンK投与(3例で新鮮凍結血漿併用)で回復した。(海外)
<臨床研究報告>18)【セフォテタン、ラタモキセフ(NMTT基あり)による血液凝固能異常】
注射用抗生物質を投与した24例で、プロトロンビン比が70%以下になった症例の使用薬剤を調査したところ、セフォテタン、ラタモキセフ使用例が各々6例、1例であった。
<症例報告事例>9)【ラタモキセフ(NMTT基あり)、セフスロジン、セファレキシンによる出血】
45才男性の手術創感染悪化に対し、クロキサシリン、セファゾリン、ゲンタマイシン、アンピシリン、シソマイシン、リンコマイシンを長期投与した。この間、出血を示唆する症状はあったが、抗生物質をラタモキセフ、セフスロジン、アミカシンに変更した4日後には著明な出血を来した。また、23才女性では、セファレキシンの長期内服中に歯肉出血を来した。何れもビタミンK1投与で回復した。
<症例報告事例>19)【ラタモキセフ(NMTT基あり)による血液凝固能異常、出血】
腹膜透析中の55才女性の感染予防、透析施行中の55才男性の敗血症疑いに、ラタモキセフを投与した。出血傾向となり、両症例とも活性化部分トロンボプラスチン時間、プロトロンビン時間の著しい延長を示した。ビタミンK2静注で出血傾向は正常化した。
<症例報告事例>20)
【セフメノキシム、セフメタゾール、ラタモキセフ、セフォペラゾン(NMTT基あり)による血液凝固能異常】
セフメノキシム長期投与中の77才男性と、セフォチアム、セフメタゾール、ラタモキセフ、セフォペラゾン、アミカシン、ピペラシリン、セフメノキシム、セフォキシチンで長期化学療法施行中の72才女性で、出血傾向と著しいプロトロンビン時間比低下、部分トロンボプラスチン時間延長を認めた。ビタミンK2点滴静注で急速に回復した。
<症例報告事例>21)
【セフピラミド、ラタモキセフ、セフォテタン(NMTT基あり)による血液凝固能異常、出血】
セフピラミド投与中の85才男性、ラタモキセフ投与中の75才男性、セフォテタン投与中の59才女性に各々下血、血性胆汁、血尿が出現し、プロトロンビン時間比の著しい低下を認めた。何れもビタミンK2の静注で改善した。
<症例報告事例>22)【NMTT基のあるセフェム系抗生物質によるPIVKA-Ⅱ陽性、出血】
NMTT基のない抗生物質投与例30例ではPIVKA-Ⅱ陽性例はなかったが、NMTT基のある抗生物質投与例28例では、投与後に6例でPIVKA-Ⅱが陽性で、内2例で出血傾向を認めビタミンK投与を行った。使用薬剤はラタモキセフとセフメノキシムが各3例であった。
<症例報告事例>23)【セファゾリン(NMTT基なし)による血液凝固能異常、出血】
85才男性。発熱・尿路感染症にセファゾリンを投与した。12日後、上肢に皮下出血が出現、その2日後には出血斑は全身に拡大し下血を認めた。プロトロンビン時間と部分トロンボプラスチン時間は著しく延長しており、セファゾリンを中止しビタミンK1を投与して改善を示した。
<臨床研究報告>24)【NMTT基のあるセフェム系抗生物質による血液凝固能異常】
抗生物質を7日間以上静注している55名のトロンボテスト値、ヘパプラスチンテスト値を検討した。経口摂取量が著減している患者では、両テスト値が経口摂取量著減のみられない患者に比し有意に低かった。使用抗生物質別では、両テストともNMTT基のある抗生物質使用例でNMTT基のない抗生物質使用例より有意に低値であった。
[患者側の要因、抗生物質投与による血液凝固能異常の事例]
<臨床研究報告>4)【経口摂取不能、セフェム系抗生物質投与例における血液凝固能異常】
中心静脈栄養(IVH)の2週間以上施行例20例(全例セファロスポリン系抗生物質併用)を、ビタミンK2投与群11例と非投与群9例に分け、ヘパプラスチンテストの推移を検討した。ビタミンK2非投与群では、6例で7~21日後にヘパプラスチンテスト値が低下し、ビタミンK投与を必要とした。
<臨床研究報告>1)【摂食状態不良、セフェム系抗生物質投与例における血液凝固能異常、出血】
摂食状態不良の患者11例に、感染症治療目的でセフェム系抗生物質を投与したところ、プロトロンビン時間が延長し、10例で出血症状がみられた。
<臨床研究報告>7)【腎不全、摂食状態不良、抗生物質投与例における血液凝固能異常】
ビタミンK欠乏による血液凝固障害を来した抗生物質投与中の腎不全患者10例の背景を検討したところ、危険因子として摂食状態不良、薬物の代謝障害などが考えられた。
<症例報告事例>3)【腎不全、経口摂取不能、セフェム系抗生物質投与例における血液凝固能異常】
60才女。腎不全で透析を施行中で摂食状態は不良である。腹膜炎疑いでセフテゾールとトブラシンを投与していたところ、出血症状が出現した。プロトロンビン時間は28.6秒、部分トロンボプラスチン時間は67.3秒に延長していた。ビタミンK2投与で急速に回復した。
【参考文献】 [文献請求番号]
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