ワルファリン療法を行っている患者には、納豆の摂取を控えるようにとの指導がされているが、これは納豆には大量のビタミンKが含まれていること、及び納豆菌により腸内で合成されるビタミンKが吸収されることによって、ワルファリンに対する拮抗作用を示すことによる。
以下、臨床報告、納豆摂取試験による凝固活性および凝固因子の変動と摂取後の血中ビタミンK量を測定した文献を紹介する。
1..工藤らは、弁置換後のワルファリン療法施行中にトロンボテスト値が上昇した症例の検索により納豆の摂取が原因であったとする3例について報告1)している。また同時に健康成人にワルファリンを投与し、トロンボテスト値の低下後に納豆100g(市販の大きいパック1包)を摂取した試験1)では、ワルファリンを継続して投与したにもかかわらず、24~72時間トロンボテスト値の高値が持続した(図1)。なおワルファリンを投与しないで納豆100gを摂取し、ビタミンK依存性凝固因子を測定すると、プロトロンビン時間は短縮傾向、第Ⅱ・第Ⅶ・第Ⅹ因子は増加傾向がみられている1)。
2.また、健康成人で納豆摂取後の血中ビタミンK濃度を検討した報告では、納豆を1週間禁食した後に納豆100gを摂食させたところ、血中総ビタミンK濃度は有意に上昇したが、血中ビタミンK1濃度、血中メナキノン-4濃度には変化はなく、血中メナキノン-7濃度が有意な上昇を示していたと報告されている2)。また、納豆30gおよび10gの少量の摂取でも血中ビタミンK濃度は有意に上昇することから、たとえ少量でもワルファリンの効果を減弱する可能性があり、注意を要すると工藤らは報告している3,4)。
また、「納豆に含まれるナットウキナーゼ(Nattokinase)が血栓溶解作用を示す」との報告5)があるが、ワルファリン療法中の患者については、納豆を摂取することは上記の報告から少量といえども禁止すべきである6)。
【納豆菌について】
納豆中のビタミンK含有量はホウレン草やキャベツに比べ特に多いわけではないにもかかわらず、ワルファリンの作用に拮抗するのは、納豆菌が腸内でビタミンKを産生するためと推察されている。一般に細菌は腸内でビタミンKを合成するとされているが、納豆菌は細菌のなかでも特にビタミンK合成能力が強いBacillus subtilisに属している。納豆菌のうち、ビタミンK産生能の極めて低い菌株のみを使用した納豆の研究が行われているが、商品化はされていない。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)工藤 龍彦ら: 医学のあゆみ, 104, 36(1978) WF-0005
2)Kudo T et al.: Artery, 17, 189(1990) WF-0592
3)工藤 龍彦ら: 日本血栓止血学会誌, 7, 239(1996) WF-0972
4)下平 秀夫ら: 医薬ジャーナル, 33, 2559(1997) WF-1073
5)須見 洋行: 化学と生物, 29, 119(1991) ZZZ-0027
6)松田 保: 日本医事新報, 3428, 166(1990) WF-0589