ブコロームは非ステロイド性抗炎症・痛風治療剤である。
基本的にはワルファリン療法を受けている患者に上記疾患が合併している場合にのみ併用されるケースがあるといえる。
ブコロームの添付文書には、クマリン系抗凝固剤(ワルファリンなど)の作用を増強することが記載されている。併用する場合には、ワルファリンもしくはブコロームを減量するなど慎重に投与する。
ブコロームがワルファリンの代謝を阻害することにより、併用によりワルファリンの投与量を少なくし、かつ安定した治療域を保つことが出来るとした報告例がある。しかしながら、この目的でブコロームをワルファリンと併用することは、「適応外使用」である。両薬の適応症が異なることに十分留意するとともに、併用によりINRが治療域を逸脱して上昇し出血を来たした症例の報告もあるので、定期的な血液凝固能検査を行うことが必要である。
(臨床報告)
1.松岡1) は、ブコローム(300~600mg/日)とワルファリンを併用すると、ワルファリンは1日1.0~1.5mgの少量でトロンボテストが15%前後に維持され、コントロールが容易であると報告している。
2.坂下ら2) は、人工弁置換術後の抗凝固薬療法として、ワルファリン(3~6mg/日)で凝固能抑制効果が不安定と判定した場合は積極的にブコロームを併用する。この際、原則的にワルファリン(1mg/日)、ブコローム(300mg/日)から始めて、トロンボテスト値をチェックし、期待する効果が得られない場合ワルファリンを増減量していく。なお、年少例にはブコローム(100~150mg/日)から開始した方がよいと述べている。
3.Sakuragawaら3)は、人工弁置換術例における抗凝固薬療法にブコローム(300mg/日)とワルファリン(1~2mg/日)を使用し、2週間ごとにトロンボテストによるチェックを実施し、トロンボテスト値を10~25%に保つことによりよくコントロールされると報告している。
(安全性)
ブコロームによるワルファリンの作用増強の薬理的機序は、以下のように報告されている。
1.松岡1)によると、ブコロームはアルブミンとの蛋白結合率が高いため、ワルファリンと競合して遊離形のワルファリンを増加させ、作用を増強するとしている。
2.真島ら4)は、蛋白結合したワルファリンを遊離させるのではなく、ワルファリンの蛋白結合を妨げ、遊離のままのワルファリンを蓄積するとしている。
3.坂下ら2)は作用機序としてブコロームとワルファリンが蛋白結合する際の相互作用にあると前述2つの考え方を認める報告をしている。
一方、ワルファリン療法では、特に出血に細心の注意が必要であるが、ブコロームの長期投与に際しては定期的な臨床検査(尿検査、血液検査、肝機能検査など)が必要であると使用上の注意に記載されている。
4.浅井ら5)は、人工弁置換術後の抗凝固薬療法の問題点として出血をきたした症例を報告し、そのなかでブコローム併用時のワルファリンの増量に際しては、0.25~0.5mg程度からの微量調節および定期的トロンボテスト値のチェックが必要であるとしている。
5.これまでブコロームとワルファリンの相互作用の機序として蛋白結合の関与が知られているが、高橋ら6,7)によりブコロームとワルファリンとの相互作用には肝代謝が影響することが明らかになった。
ワルファリンとブコロームの併用21例とワルファリン単独34例の血中ワルファリン異性体濃度と遊離形分率を測定し、遊離形濃度と経口投与された遊離形のクリアランスを算出した。S-ワルファリンの肝クリアランスを尿中7-水酸化ワルファリン濃度から算出した。併用群のワルファリンの投与量は単独群に比べて有意に少なかったが、併用群のINRは単独群に比べて有意に高かった。併用群の遊離形分率は単独群の約2倍であった。併用群ではS-ワルファリンの遊離形のクリアランスと肝クリアランスは単独群の約1/6であった。
別に行ったヒト肝ミクロソームと酵母CYP2C9発現系での実験の結果、相互作用の機序がブコロームによるS-ワルファリンの7位水酸化酵素CYP2C9の競合的阻害にあることが示唆された。
6.ブコロームの併用によりワルファリンのクリアランスが低下するが、個人間バラツキや個人内での変動が減少するとの報告がある8)。併用の有用性として、他の併用薬による影響を受けにくくなる可能性が考えられる。
ワルファリンにブコロームを併用した症例でINRが異常高値となった症例も報告されている。
7.室崎ら9)はワルファリン療法が3mg/日の単独投与から1.5mg/日+ブコローム300mg/日に変更された17日後、肉眼的血尿を来たし、INRは18.57へと上昇していた65才男性について報告している。
8.薮田ら10)はワルファリンとブコロームの併用によるINR異常高値(8.79)を来たした83才女性例を報告している。
以上のことから、ブコロームとワルファリンの併用に際しては、それぞれの薬剤の適応対象が異なることの認識、定期的な臨床検査の実施が必須である。また、かつブコロームによる副作用発現などにも考慮しながら、医師の慎重な治療が患者の了解と協力のもとに行われる場合にのみ有効な方法と考えられる。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)松岡 松三: Geriatr. Med., 15, 505(1977) WF-0335
2)坂下 勲ら: 心臓, 10, 400(1978) WF-0336
3)Sakuragawa N et al.: 日本血液学会雑誌, 45, 830(1982) WF-0168
4)真島 正ら: 新潟医学会雑誌, 88, 95(1974) WF-0021
5)浅井 康文ら: 薬理と治療, 12, 4671(1984) WF-0073
6)高橋 晴美ら: 臨床薬理, 29, 267(1998) WF-1107
7)Takahashi H et al.: Drug Metab. Disposition, 27, 1179(1999) WF-1224
8)Osawa M et al.: Int. J. Pharm., 293, 43(2005) WF-2145
9)室崎 伸和ら: 日本泌尿器科学会雑誌 96, 564(2005) WF-2155
10)薮田 慶子ら: 第28回 日本病院薬剤師会近畿学術大会 抄録集 199(2007) WF-2401