一般に、高齢者は成人と比べ体内薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)に相違が見られることが多い。それに伴って血漿蛋白の減少、肝での薬物代謝および腎排泄の遅延、肝でのビタミンK依存性凝固因子合成能の低下などの加齢による生理的現象も生じており、高齢者でのワルファリンの投与量は一般成人と比べ、少なくなると思われる。
1.体内動態
上記の傾向は種々の文献においても報告されている。Crooksら1) は、一般成人に比べ高齢者でのワルファリンの血中半減期は延長していたと報告している。
2.加齢によるワルファリンの投与量の変化
上記の理由によりワルファリンの投与量は高齢者では減少傾向にある。
1)Redwoodら2)は中・長期ワルファリン療法で安定している患者群(年齢23~89才)および標準のワルファリン投与量によりワルファリン療法を開始した患者群(年齢15~83才)で、年齢とワルファリン投与量の関係を検討したところ、高齢者ではワルファリンの必要量が若干少なくなるが、ワルファリン療法の導入は同じプロトコールでよいと考えられるとした。
2)Gurwitzら3)も同様な報告をしている。(下表参照)
3)永川ら4)は、高齢者(60才以上:平均70才)と若壮年者(59才以下:平均48才)ではトロンボテストの平均値では両群において差は認められなかったが(高齢者の平均トロンボテスト値:17.5%、若壮年者の平均トロンボテスト値:18.5%)、平均投与量は高齢者群が減少傾向を示したとしている(高齢者群:2.75mg/日、若壮年群:3.58mg/日、p<0.001)。また、高齢者の理想トロンボテスト値は出血のリスクを防ぐため、10~20%が望ましいとしている。
3.注意事項
一般成人以上に血液凝固能検査値の変動に注意し、定期検査は1~2回/月毎に必ず実施し、臨床症状の変化にも注意すること。
今後、ガイドラインに示された対象疾患へのワルファリンの投与が増加すると予想される。高齢者への投与が必然的に増加してくることから、血栓塞栓症の治療・予防と出血性合併症のリスクを十分考慮することが益々求められる。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Crooks J et al.: Clin. Pharm., 1, 280(1976) WF-0513
2)Redwood M et al.: Age Ageing, 20, 217(1991) WF-0625
3)Gurwitz JH et al.: Ann. Intern. Med., 116, 901(1992) WF-0746
4)永川 祐三ら: 日本老年医学会雑誌, 23, 372(1986) WF-0306
5)白倉 卓夫: Geriatr. Med., 22, 1421(1984) WF-0425
6)Wickramasinghe LSP et al.: Age Ageing, 17, 388(1988) WF-0585
7)McBride R et al.: Lancet, 343, 687(1994) WF-0813