血栓塞栓症の絶対的なリスク評価は、抗凝固療法を必要とする基礎疾患、合併する心血管危険因子の存在、手術のタイプを考慮すべきである。
1)患者由来・適応疾患に伴う血栓塞栓症リスク
血栓塞栓症リスクの程度は、周術期の抗凝固療法の継続の要否に関わってくる。リスクが低ければ周術期に抗凝固療法の中断も可能となるが、リスクが高ければ継続もしくは代替療法が必須となる。参考として、米国胸部専門医学会(ACCP) 2012年のガイドライン(2012)1)では、機械人工弁、心房細動、静脈血栓塞栓症の患者を取り上げ、分類している。さらにSpyropoulosら(2016)2)は、国際血栓止血学会(ISTH)のガイダンスで米国胸部専門医学会(ACCP)ガイドライン(2012)「抗血栓療法の周術期の管理」1)の高度、中等度及び低度の各リスク分類の頻度の目安を示した。
ただし、国内での適合性・妥当性について、今後検証が必要である。
<リスク分類の頻度>2)
高度リスク :動脈血栓塞栓症 年10%超もしくは静脈血栓塞栓症 月10%超
中等度リスク:動脈血栓塞栓症 年4~10%もしくは静脈血栓塞栓症 月4~10%
低度リスク :動脈血栓塞栓症 年4%未満もしくは静脈血栓塞栓症 月2%未満
2)手術及び手技に伴う血栓塞栓リスク(一部の手術・手技)
術後の血栓性リスクについては、手術の種類・内容によって、術前より抗血栓療法の程度を変更すべき場合や新たに抗血栓療法を開始すべき場合もあり、期間が一時的・永続的かなどを含めた対応に関わってくる。人工弁置換術後、冠動脈ステント留置、冠動脈バイパス術、頸動脈血管内膜切除術などの手術は血栓塞栓症リスクが特に高いと考えられる。
*周術期管理の項では、人工弁などの医療デバイスに由来する遠隔期の血栓塞栓リスクについては別項目に詳しく記載する。なお、各種手術手技施行後に対する血栓塞栓症の予防については、肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインなどが参考となる。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Douketis,J.D. et al.: Chest, 141, e326S(2012) WF-3661
2)Spyropoulos,A.C. et al.: J.Thromb.Haemost., 14, 875(2016) WF-4453