本項目では、心血管系関連の手技の中で主に心房細動に対するカテーテル・アブレーション、電気的除細動そして心臓ペースメーカー・植込み型除細動器の植込み術における抗血栓療法について取り扱った。
1.心房細動でのカテーテル・アブレーションとその抗凝固療法
1) ガイドライン
GL 『循環器病の診断と治療に関するガイドライン』「心房細動治療(薬物)ガイドライン」(2013年改訂版)1)では、アブレーションに対する周術期対応において、心房細動の血栓塞栓症リスクに加え、左房に対するカテーテルやシースの挿入、心内膜への熱による侵襲などから、手技実施3 週間前から2ヵ月後まで抗凝固療法の実施が推奨されている。
GL 米国胸部疾患学会(ACCP)診療ガイドライン第9版「心房細動に対する抗血栓療法」(2012年)2)では、リズムコントロール戦略で管理する心房細動患者について、洞調律維持のためカテーテル・アブレーション/カテーテル高周波除去手技(肺静脈隔離)を実施するケースが増加している。ただし、薬物療法やアブレーションによるリズムコントロール戦略で管理された心房細動患者で見かけ上洞調律維持した場合でも一般的なリスクから抗凝固療法が推奨されている。
2) 臨床研究
RCT Di Biaseら(2010)3)は、心房細動でアブレーションを実施した症例の無作為割付試験にて、ワルファリン中止群と継続群を検討し、継続下で周術期の出血、心膜液貯留を増大させることなく脳梗塞リスクを軽減できることとを示唆した。
OBSs 多くの観察研究があり、ワルファリン中止群と継続群の検討4,5)、その国内報告6)、手技前INR 2以上及び未満での検討7,8)、継続投与での適切なINRの検討9)、継続投与の安全性・実行可能性10)、継続投与の国内報告11)、ORBIT-AFなどのデータベース研究12)など、様々な報告がある。観察研究の限界を有するが、ワルファリン継続投与の群とワルファリンを中止し低分子量ヘパリン(LMWH)やヘパリンへ置換した群を比較しているが、概ね有意差がないか継続投与が良い結果を示している。
OBS Finlayら(2010)13)は、ケースコントロール研究を実施し、ワルファリンの継続投与で有意に合併症が少なく、コストも安価であることを報告した。
OBS Inoueら(2013)14)は、60%程度がワルファリン継続投与下でアブレーションが行われていると報告した。
OBS 脳梗塞の危険因子のない例や脳梗塞の既往と年齢(65 歳超)以外の危険因子を有する例で、アブレーション成功が明らかな場合は3~6ヵ月後に抗凝固薬を中止することが可能とする考えもある15)。
OBS Wallaceら(2010)16)は手技施行前の経食道心エコーの実施した観察研究で、アブレーション2-4日以内の左心耳血栓3.6%と報告している。なお、全例がワルファリンを中止して、エノキサパリンに置換しており、ワルファリン継続でのデータはない。OBS 周術期の血栓塞栓症リスクについて無症候性塞栓症なども評価指標として検討されている17)。
心房細動に対するアブレーション後の抗凝固療法に関しては、アブレーション後の長期予後がいまだ不明であり、中止の可否は明確ではない。
近年、DOAC(direct oral anticoagulant)をワルファリンと比較した報告が数多く出ているが、大規模臨床試験のデータを用いたサブ解析18)や観察研究17,19-26)、ヘパリン置換での比較試験27)など、ワルファリン群の設定は様々であり、患者背景の相違やヘパリン置換の治療方法なども含まれ、適切なワルファリン療法の評価は困難である。メタ解析28-32)についても合併症の発現状況の有意差についても結論が様々であり、今後の検討が必要である。
2.心房細動での電気的除細動を実施とその抗凝固療法
1) ガイドライン
GL 『循環器病の診断と治療に関するガイドライン』「心房細動治療(薬物)ガイドライン」(2013年改訂)1)では、心房細動の除細動にあたっては,まず心房内血栓のないことが確認されているか,十分な抗凝固療法が行われていることが重要である.特に48 時間以上持続している心房細動や持続時間の不明な心房細動では,緊急性が高い場合を除き,塞栓症の可能性を最小限に抑える配慮が求められる。
GL 米国胸部疾患学会(ACCP)診療ガイドライン第9版「心房細動に対する抗血栓療法」(2012年)2)では、電気的除細動 関連の脳卒中や全身性塞栓症のリスク最小化のため、実施前3週間以上、実施後4週間以上の抗凝固療法(用量調節ビタミンK拮抗薬 INR 2.0-3.0)が慣習的に推奨されている。
2) 臨床研究
OBS Collinsら(1995)33)は、心房細動患者の電気除細動時の血栓塞栓の予防に対するワルファリンの効果を経食道心エコー検査により検討し、除細動実施前およそ4週間のワルファリン療法が心房内血栓を消失させ、新たな血栓形成を抑制することを示唆した。
OBS Corradoら(1999)34)は、電気的除細動予定の心房細動患者123例に経食道心エコー検査を実施し、ワルファリンの左心耳血栓への効果を検討した。検査で左心耳血栓のなかった112例は電気的除細動を実施した。血栓のあった11例には4週間の抗凝固療法を行い、9例で血栓が消失し、電気的除細動を実施した。
RCT ACUTE(2001)35)では、心房細動患者の電気的除細動において実施前3週間の抗凝固療法の従来法と経食道心エコー検査による短期間の抗凝固療法との無作為比較試験を実施し、代替療法となる可能性を示した。
近年、DOACをワルファリンと比較した大規模臨床試験のデータを用いたサブ解析18,36,37)の結果などが報告されているが、ワルファリン群の設定は様々で適切なワルファリン療法の評価は困難であり、今後の検討が必要である。
3.心臓ペースメーカー・植込み型除細動器の植込み術時の抗凝固療法
ガイドラインで具体的な管理方法について明確な見解が示されていないが、下記の臨床試験の結果などは今後の周術期管理の見直しに重要な知見になると考えられる。ペースメーカーまたは植込み型除細動器(ICD: Implantable Cardioverter Defibrillator)植込み術の施行において、ワルファリン継続がブリッジングによる方法と比べて、臨床的に問題となるポケット部の血腫が少なかった点などが注目される。これらデバイス改良や新たなデバイスの臨床導入に伴い、今後の検討及び評価による見直しが必要である。
また、着脱可能な除細動器など、侵襲のより少ないデバイスの開発・改良が進んでおり、周術期管理のリスクを根本から回避できることが今後期待される。
1) ガイドライン
GL 『循環器病の診断と治療に関するガイドライン』「心房細動治療(薬物)ガイドライン」(2013年改訂版)1)では、下記にBRUISE CONTROL(2013)38)の結果などを引用しつつ、ヘパリンブリッジの有用性は確立していないが、ヘパリンでブリッジする場合はヘパリンの用量管理を厳重に行うべきであろうとしている。
GL 米国胸部疾患学会(ACCP)診療ガイドライン第9版「心房細動に対する抗血栓療法」(2012年)2)では、出血リスクの増加を考慮される小手術手技として取り上げられているもののその管理方法について明記していない。
2) 臨床試験
RCT BRUISE CONTROL(2013)38)では、血栓塞栓症発症リスク≧5%/年と予測される患者に対するペースメーカー・植込み型除細動器の植込み術をワルファリン継続して実施する方法(継続群)とヘパリンブリッジングして実施する方法(ブリッジング群)との安全性について無作為割付試験で検討した。継続群では術当日のINR3.0以下を目標とし、ブリッジング群は手術5日前にワルファリンを中止し、手術3日前より低分子量ヘパリンまたは未分画ヘパリンを投与した。臨床的に有意なデバイスポケット部の血腫は継続群12例(3.5%)とブリッジング群54例(16.0%)とで有意差があった。
OBS Ahmedら(2010)39)は、ペースメーカーや除細動器植込み術時のワルファリン継続群、中断群、ブリッジング群の転帰について検討し、継続群以外で一過性脳虚血発作(TIA)を発現し、継続群がブリッジング群より出血が少ないことを報告した。
OBS Thalら(2010)40)は、恒久的ペースメーカーや植込み型除細動器の植込み術時の血腫形成について検討し。抗凝固療法でも血腫は稀であったと報告した。
OBS Schulmanら(2013)41)は、人工弁置換術後のペースメーカーまたは植込み型除細動器の選択的植込み術での周術期管理について、術後ワルファリン再開時にヘパリン等のオーバーラップを行わず、血腫形成のリスク軽減の可能性を示した。
(国内報告)
OBS Yokoshikiら(2013)42)は、植込み型除細動器植え込み術における出血増加のリスクとしてへパリンブリッジを報告した。
OBS Fujiwaraら(2012)43)は、ペースメーカー、植込み型除細動器、心臓再同期治療ペースメーカー、心臓再同期治療除細動器の植込み術における出血性合併症のリスク要因を検討した。
【参考文献】 [文献請求番号]
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