生体弁について考察した文献では、血栓塞栓症の発生率が低い点ですぐれているが、耐久性に問題点がある37,38)。
RCT Turpieら(1988)39)は、生体弁による人工弁置換術後の患者にて、ワルファリンによる抗凝固療法で目標INR 2.5~4.0群108例、目標INR 2.0~2.25群102例との無作為割付けの比較試験で検討した。重大な塞栓症の発生は各群2例であった。いずれも僧帽弁置換術後、心房細動を合併した症例であった。軽微な塞栓症は各群11例で認められた。出血事故は目標INR 2.5~4.0群で15例(13.9%)、内5例は重大な出血事故であった。目標INR 2.0~2.25群では出血事故は6例(5.9%)、重大な出血事故はなかった。
RCT Bloomfieldら(1991)40)は、1975~79年の人工弁置換術施行患者541例をBjork-Shiley弁(BS弁)使用またはブタ生体弁使用に無作為割付試験にて検討した。12年の追跡にて生存率はBS弁が良好であったが、出血性副作用は抗凝固療法を継続するBS弁が明らかに多かった。
・生体弁置換術後 ワルファリンとアスピリンとの比較
RCT Gherliら(2004)41)は、生体弁による大動脈弁置換術後の患者にて、アスピリン(100mg/日)群141例、ワルファリン群108例との無作為割付の比較試験で検討した。ワルファリン群は目標INR2.0~3.0で術後3ヵ月まで投与し、その後アスピリンに変更した。術後24時間~3ヵ月の脳虚血発作はアスピリン群3例(2.1%)、ワルファリン群5例(4.6%)、術後3ヵ月以降の脳虚血発作はアスピリン群1例(0.7%)、ワルファリン群3例(2.8%)であった。重大な出血事故はアスピリン群3例(2.1%)、ワルファリン群4例(3.7%)に発生した。周術期(術後30日以内)の死亡はアスピリン群1例、ワルファリン群2例、追跡期の死亡はアスピリン群3例、ワルファリン群5例であった。いずれも群間に有意差は認められなかった。
・生体弁置換術後、弁形成術の観察研究
OBS Thourani,V.H.ら(2013)42)は、僧帽弁に対する弁形成術または生体弁置換術行後のワルファリン短期投与の影響をレトロスペクティブに検討した。術後にワルファリン4週投与(目標INR 2.0?2.2)の投与群315例、ワルファリンの非投与群257例をPropensity Scoreで抽出し、検討した。投与群/非投与群の生存率は、1年で98.6%/91.9%、3年で92.2%/82.6%、5年で90.2%/71.2%、10年で72.4%/57.7%であった。オッズ比では、脳卒中、胸水貯留、心嚢液貯留、出血性合併症の発生率に有意差はなかった。ハザード比では、長期生存率(中央値6.3年)は投与群が非投与群に優る傾向であったが、有意差はなかった。
・経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の観察研究
OBS Figiniら(2013)43)は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は、従来の大動脈弁置換術が高リスクの患者への施術が考慮されるが、血栓性合併症の問題から、抗血小板薬2剤併用療法が行われる。一方、TAVIを要する患者では、抗凝固療法適応疾患を有する例も多い。TAVIを施行し抗血栓療法を導入した360例のうち、アスピリン+クロピドグレルを3~6ヵ月投与し、その後アスピリン単独投与とした群300例と、心房細動、深部静脈血栓症等のためヘパリンで抗凝固療法を導入してワルファリンへと切替え、抗血小板薬1剤を併用した群43例について、レトロスペクティブに転帰を調査した。両群のTAVIの弁の型や手技に有意差はなかった。追跡期間中央値はアスピリン単独投与とした群330日、抗血小板薬1剤を併用した群368日で有意差はなかった。両群の転帰(死亡率、心筋梗塞発症、脳血管事故発症、致死性出血事故、大出血事故、軽微な出血事故、ヘモグロビン減少、輸血、赤血球輸血、急性腎不全、血管性合併症、大動脈解離、デバイス留置成功率、術後30日までに合併症のなかった患者の比率、入院日数)に有意差はなかった。
【参考文献】 [文献請求番号]
37)花田捷治ら: 日本胸部外科学会雑誌, 29, 63(1981) WF-0083
38)Galloway A.C. et al.: Ann.Thorac.Surg. , 47, 655(1989) WF-0516
39)Turpie A.G.G. et al.: Lancet, 1, 1242(1988) WF-1948
40)Bloomfield P. et al.: N.Engl.J.Med., 324, 573(1991) WF-1999
41)Gherli T. et al.: Circulation, 110, 496(2004) WF-1946
42)Thourani V.H. et al.: J.Heart Valve Dis., 22, 716(2013) WF-4047
43)Figini F. et al.: Am.J.Cardiol., 111, 237(2013) WF-3810
【更新年月】
2021年1月