[相互作用を示す薬剤名]
〔薬効分類 611 主としてグラム陽性菌に作用するもの、612 主としてグラム陰性菌に作用するもの
613 主としてグラム陽性・陰性菌に作用するもの〕
[相互作用の内容]
本剤の作用を増強する。
逆にジクロキサシリン(本邦ではアンピシリンとの配合剤として販売)、ナフシリン(本邦販売なし)により本剤の作用が減弱したとの報告がある。(Ⅷ-26「セフェム系抗生物質」の項参照)
【アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、アンピシリン・スルバクタム、レナンピシリン、スルタミシリン、ピペラシリン・タゾバクタムの添付文書に併用注意の記載がある】
[併用時の注意]
相互作用は稀であると思われるが、併用時は血液凝固能の変動に注意し、必要に応じて本剤の用量調節をすること。
逆にジクロキサシリン(本邦ではアンピシリンとの配合剤として販売)、ナフシリン(本邦販売なし)により本剤の作用が減弱したとの報告があるので、血液凝固能の変動に注意すること。(Ⅷ-26「セフェム系抗生物質」の項参照)
[相互作用の機序]1,2)
[本剤の作用増強]
・ビタミンK産生腸内細菌を抑制してビタミンK産生を抑制する。
・肝細胞のビタミンK依存性凝固因子の生成を阻害する。
・腸管からのビタミンK吸収を阻害する。
その他の機序として
・アンチトロンビン活性を変化させる。
・血小板凝集抑制。
・フィブリノゲンからフィブリンへ変換を抑制させる。
[本剤の作用減弱]
不明。
なお、ナフシリン(本邦販売なし)でワルファリンの肝代謝が増加する可能性がある。
[相互作用の事例]
<症例報告事例>3)【アンピシリンによるワルファリンの作用増強】
40才女性。大動脈弁置換術後、ワルファリン2mg/日を投与してトロンボテスト値は13~20%であった。発熱と咳によりアンピシリンを服用した。3日後、頭痛、嘔吐で緊急入院。トロンボテスト値6.0%、プロトロンビン活性14.5%で、CTにより硬膜下血腫と診断された。発熱やアンピシリンによりワルファリンの作用が増強されて脳出血を来したと考えられた。
<症例報告事例>4)
【アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラン酸によるワルファリンの作用増強】
(症例1)85才女性。深部静脈血栓症でワルファリン投与中であった。アモキシシリン・クラブラン酸配合剤を1週間投与した。抗生物質投与終了1週後、口腔と直腸出血、挫傷を来し死亡した。INRは10を超えていた。
(症例2)65才男性。腋下動脈血栓にワルファリンを投与中で、INRは2.9であった。アモキシシリン投与後にINRが9.1となり、出血を来した。
(症例3)54才女性。僧帽弁狭窄でワルファリン服用中。アモキシシリン投与により、INRが以前の2.8~3.1から6.4に上昇した。(海外)
<症例報告事例>5)【ペニシリンGによるワルファリンの作用増強】
大動脈弁置換術後にワルファリンを服用していた患者が、ペニシリンGとメトロニダゾールの併用を開始した1週間後、尿管に血腫を生じ急性腎不全を生じた。(海外)
<症例報告事例>6)【ペニシリンGによるワルファリンの作用増強】
49才男性。僧帽弁置換術施行後、ワルファリン20mg/週投与でプロトロンビン時間は18~24秒に維持されていた。亜急性細菌性心内膜炎に対し、ペニシリンG2,400万単位/日静注を開始した。ペニシリンG投与開始後、プロトロンビン時間が32秒に延長し、ワルファリンを減量して対処した。(海外)
<臨床研究報告>7)【ジクロキサシリンによるワルファリンの作用減弱】
ワルファリン投与でプロトロンビン比が1.5~2倍に維持されている男性患者7例に、ジクロキサシリン2g/日を7日間投与した。プロトロンビン時間は最大平均1.9秒(0.3~5.6秒)短縮した。(海外)
<症例報告事例>8)【アモキシシリン/クラブラン酸によるワルファリンの作用増強】
58才女性。心房細動でワルファリン7.5mg/日を1年以上投与されており、INRは概ね2~3であった。感染性耳疾患に対しアモキシシリン/クラブラン酸(500mg/125mg)を1日3回7日間投与した。INRは、抗生剤投与3週前は3.2、抗生剤療法終了4日後は2.55であったが、抗生剤終了17日後には6.2へと上昇していた。その3日後、INRは8.7と更に上昇し、顕微鏡的血尿が認められた。ワルファリンを中止し、新鮮凍結血漿2単位を投与、ビタミンK10mgを皮下注した。翌日、INRは3.43に低下。ビタミンK2.5mgを経口投与した。INRが1.9となった時点よりワルファリンを再開した。その後、ワルファリン6.5mg/日でINRは治療域となった。アモキシシリン/クラブラン酸投与で腸内のビタミンK産生細菌叢が乱れ、肝内貯蔵ビタミンKが枯渇し、ワルファリンの作用が増強されたと考えられた。(海外)
【参考文献】 [文献請求番号]
1)USP-DI,22nd ed.,Vol.Ⅰ, 265(2002) WF-1157
2)Stockley IH: Drug Interactions 5th ed.
(Blackwell Scientific Publications, Oxford), 253(1999) WF-1435
3)山沖和秀ら: 診断と治療, 84, 489(1996) WF-0986
4)Wood GD et al.: Dent. Update, 20, 350(1993) WF-1212
5)Kolko A et al.: Nephron, 65, 165(1993) WF-0788
6)Brown MA et al.: Can. J. Hosp. Pharm., 32, 18(1979) WF-1332
7)Krstenansky PM et al.: Clin. Pharm., 6, 804(1987) WF-0604
8)Davydov L et al.: Ann. Pharmacother., 37, 367(2003) WF-1493