(Ⅷ-4「アスピリン」の項、Ⅷ-10「ジピリダモール」の項参照)
[相互作用を示す薬剤名(代表的商品名)]
〔薬効分類 339 その他の血液・体液用薬〕
〔薬効分類 399 他に分類されない代謝性医薬品〕
[相互作用の内容]
相互に出血傾向を増強する。
【イコサペント酸エチル、クロピドグレル、サルポグレラート、シロスタゾール、チカグレロル、チクロピジン、プラスグレル、ベラプロスト、リマプロスト、オザグレルナトリウムの添付文書に併用注意の記載がある】
[併用時の注意]
本剤と血小板凝集抑制剤はいずれも抗血栓療法で併用される機会が多い。
血小板凝集抑制剤は血栓症治療で併用する場合があるが、出血等の臨床症状には十分注意して投与すること。
本剤と血小板凝集抑制剤を最初から併用する時、および血小板凝集抑制剤投与患者に本剤を追加する時は、血小板凝集抑制剤の量を一定にし、トロンボテスト、プロトロンビン時間などを用いて本剤投与量を調整すること。
また、本剤投与中の患者に血小板凝集抑制剤を追加する時は、併用当初、トロンボテスト、プロトロンビン時間など血液凝固能検査を頻回に行い、本剤の投与量を調整すること。
また、チクロピジンとの併用時に薬剤性肝障害も報告されているので注意すること。
[相互作用の機序]
本剤の作用と血小板凝集抑制作用とが出血傾向を相加的に増強する。
チクロピジンはCYP2C19の強い阻害薬であるが、CYP2C9に対しての阻害作用は弱いことが知られている。
[相互作用の事例]
<臨床研究報告>1)【チクロピジンによるワルファリンの作用増強】
ワルファリンを服用し、INRが安定している患者9例にチクロピジン 500 mg/日を追加した。チクロピジン開始13日後、血中R-ワルファリン濃度は有意に上昇したが、S-ワルファリン濃度は有意な変化がなかった。また、チクロピジン開始14日後、INRは8.3%上昇したが、統計学的に有意ではなかった。(海外)
<臨床研究報告>2)【シロスタゾール、相互作用なし】
健康成人男子15例にシロスタゾール100 mgまたはプラセボを1日2回13日間投与し、8日目にワルファリン 25 mgを経口投与した。ワルファリンにより血中代謝物OPC-13213濃度は有意に低下したが、シロスタゾール、代謝物OPC-13015濃度には有意な変化がなかった。シロスタゾール期の血漿R-ワルファリンとS-ワルファリン濃度の最高血中濃度到達時間、最高血中濃度、AUC、半減期、経口クリアランス、分布容積は各々プラセボ期と有意な差がなかった。ワルファリンの蛋白結合率は、シロスタゾール期がプラセボ期に比べて17%(p<0.05)高かった。プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、Ivy出血時間にはシロスタゾール期とプラセボ期に有意な差は無かった。(海外)
<臨床研究報告>3)【クロピドグレル、相互作用なし】
慢性または再発性の非弁膜症性心房細動で、目標INR2~3にて安定したワルファリン療法を2ヵ月以上行っている患者43例にて、ワルファリンとクロピドグレルの相互作用を検討した。患者を無作為にクロピドグレル75mg/日群(20例)またはプラセボ群(23例)に割り付け、8日間ワルファリンと併用投与した。第3、6、9、13、22日に、INRとワルファリン血中濃度を測定した。ワルファリン投与量は、試験期間を通じて変更しなかった。クロピドグレル群とプラセボ群の(1)患者背景、(2)試験期間中のワルファリン投与量、(3)ワルファリン服薬から採血までの時間、(4)試験期間中のINR、(5)試験期間中のS-ワルファリン、R-ワルファリンの血漿中濃度には、いずれも有意差はなかった。クロピドグレル群のINRの投与前値からの変動幅は、最大で0.6%であった。ワルファリンのS体、R体血漿中濃度も、試験期間を通じて安定していた。(海外)
<臨床研究報告>4)【チクロピジン、クロピドグレル併用による出血の増強】
65才以上で心房細動にてワルファリンを処方され退院した患者を抽出した。10,093例が検討対象の基準に合致し、内1962例(19.4%)で抗血小板薬(アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル)が併用されており、8131例(80.6%)では抗血小板薬併用はなかった。抗血小板薬併用群は非併用群に比し男性患者比率、冠疾患、高血圧、うっ血性心不全、脳卒中/一過性脳虚血発作既往歴を有する患者の比率が有意に高かった。抗血小板薬の併用は女性、高齢者、ワルファリン投与歴のある患者、認知症患者、癌患者、終末期患者、抗生物質投与患者で有意に少なく、冠疾患患者、NSAID投与患者で有意に多かった。退院後90日以内に重大な出血事故を来たしたのは、抗血小板薬併用群では1.9%、非併用群では1.3%であった(オッズ比1.46、95%信頼区間0.998~2.12)。脳出血発生率は抗血小板薬併用群のほうが約3倍であった。90日以内の重大な出血事故発生の危険因子は、女性、高齢者、貧血、出血既往歴、抗血小板薬併用であった。(海外)
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Gidal BE et al.: Ther. Drug Monit., 17, 33(1995) WF-1210
2)Mallikaarjun S et al.: Clin. Pharmacokinetics, 37(S-2), 79(1999) WF-1244
3)Lidell C et al.: Thromb. Haemost., 89, 842(2003) WF-1668
4)Shireman TI et al., Stroke, 35, 2362(2004) WF-2035