INRは、1977年にWHOが標準品としたヒト脳トロンボプラスチンを用いた場合のプロトロンビン時間比に換算した値である。(1979年には、二次標準品としてウシ脳トロンボプラスチンも作られている。)
各社の市販トロンボプラスチン試薬には、この一次標準品との活性を比較してえられた指数がロット毎に付けられており、これをISI(International Sensitivity Index)と称している。各社のトロンボプラスチン試薬を使用した時のINR値を算出するには、
の式にあてはめる。
しかし、この計算式においては、正常血漿のプロトロンビン時間が施設ごとに異なる。また、検査機器によっては試薬に添付されたISI値が使用できない等の問題が発生している。そこで、現在では各社が発売しているINRの値がついた標準血漿を用いて検量線を作成し、INR値を求める方法に移行してきている。
最近推奨されるINRでは、2.0~3.0の治療域が一般的となっている。
また、欧米人に対して日本人を含めたアジア人では、治療域は若干低いと思われる。明確な理由は定かではないが、上記治療域は日本人にとって高い(厳しい)傾向があるため、本表の各適応疾患の治療域は比較参考とすべきものであろう。
近年、日本人に適した治療域が心房細動、人工弁置換術例、そして肺塞栓症・静脈塞栓症などについてガイドラインとして発表され、欧米の2.0~3.0(中央値2.5)に対して、概ね2~3とするものが多いが、虚血性心疾患で抗血小板薬との併用療法では上限2.0、静脈血栓症などの1.5~2.5あるいは高齢者の心房細動での1.6~2.6などのように、比較的低い治療域にシフトする設定となっている。なお、日本人におけるエビデンスはまだ十分でないことから今後引き続き検討が必要である。
INRについて参考となる各種ガイドラインは以下のとおりである。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)風間 睦美ら:血液と脈管, 16, 431(1985) WF-0031
2)Poller L: Ann. Hematol., 64, 52(1992) WF-0760
3)Anonymous: Br. J. Haematol., 101, 374(1998) WF-2268
4)Baglin TP et al.: Br. J. Haematol., 132, 277(2005) WF-2269
5)Ansell J et al.: Chest, 126(S-1), 204S(2004) WF-2234
6)Gogstad GO et al.: Thromb. Haemost., 56, 178(1986) HPT-0028
7)Ansell J et al.: Chest, 133, 160S(2008) WF-3000
8)Hirsh J et al.: Circulation, 107, 1692(2003) WF-1665
9)堀 正二ら: 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告), 1(2013) WF-4122
10)井上 博ら: 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012 年度合同研究班報告), 1(2013) WF-4053
11)安藤 太三ら: 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告, 1(2013) WF-4053