心房細動は年齢とともに発症数が増加すること、抗血栓療法実施中の患者が年齢を重ねること、高齢者でのイベントリスクなどを考慮すると、高齢者における抗血栓療法を安全に実施することは重要な課題の一つである。70才、75才、80才など、区切りとなる年齢は様々だが、複数の臨床研究が報告されている。
RCT BAFTA(2007)18)では、75才以上の心房細動973例を目標INR2~3のワルファリン群とアスピリン75mg/日群に無作為に割付け、比較検討した。脳卒中、他の頭蓋内出血、全身性塞栓症の合計ではワルファリン群は1.8%/年(24例)の発生であり、アスピリン群の3.8%/年(48例)に比し相対リスク0.48で有意に少なく、出血事故の発生率には群間に有意差はなかった。
RCT Rash ら(2007)81)は、80才代の心房細動患者をアスピリン300mg/日投与群39例とワルファリン投与群(目標INR2.0~3.0)36例に無作為に割付け、比較検討した。一次エンドポイント(死亡、血栓塞栓症、重大な出血事故、試験継続拒否、不耐薬性/副作用による脱落、2回以上のINR 4.5以上)に至ったのは、アスピリン群が44%(19/39例)、ワルファリン群が25%(9/36例)で有意差はなかった(p=0.114)が、有害事象はアスピリン群で33%(13/39例)に認め、ワルファリン群の6%(2/36例)に比し有意に多く、有害事象、忍容性でアスピリンに比しワルファリンが有意に優った。
OBS Johnsonら(2005)82)は、観察研究として心房細動でワルファリンを投与中の76才以上の患者における重大な出血事故、脳梗塞の発生率を検討した。年間出血事故発生率は重大な出血事故で10%/年、致死的出血で0.9%/年であった。重大な出血事故発生直前のINR >3はその内41.5%であった。脳梗塞は、年間発生率は2.6%/年であった。その内70.6%はINR<2で脳梗塞を発症した。
OBS Poliら(2011)83)は、高齢者におけるビタミンK拮抗薬による出血リスクを大規模な観察研究にて心房細動の血栓予防または静脈血栓塞栓症に対して目標INR2.0~3.0でビタミンK拮抗薬療法を導入した80才以上の4093例、9603患者・年にて観察、検討した。観察期間中、大出血は1.87件/100患者・年、頭蓋内出血0.55件/100患者・年、致死的出血0.27件/100患者・年であった。大出血は3ヵ月以内(3.87件/100患者・年)が3ヵ月超(1.63件/100患者・年)より有意に多かった。大出血は女性より男性が、85才未満より85才以上が、心房細動より静脈血栓塞栓症が有意に多く、他の有意な大出血の危険因子は、出血既往、活動性の癌、転倒の既往であった。
OBS Hylekら(2007)84)は、ワルファリン療法を新たに導入した65才以上の心房細動患者を80才以上の153例と80才未満の319例に分け、ワルファリン療法導入1年後までの重大な出血事故やワルファリンの投与中止に差があるか否かを検討した。80才以上群、80才未満群は各々14例(100患者・年当り13.08件)、12例(同4.75件)の重大な出血事故が発生し、群間に有意差が認められた。出血事故の有意な危険因子はワルファリン開始90日以内、高齢、INR4以上であった。重大な出血事故、ワルファリン投与中止はCHADS2スコアが3以上で有意に多かった。
OBS Hildeら(2016)85)は、ビタミンK拮抗薬による70才以上の患者(心房細動)での出血及び血栓塞栓症のリスクをコホート研究で検討した。80才以降で出血において緩やかなリスク上昇を示す一方で血栓塞栓症では急激なリスク上昇が見られた。要因としては、TTR及びINR変動で示されたVKAコントロールは年齢上昇に伴い低下し、90才以上の出血リスクを一部説明できた。しかし血栓塞栓症のリスクのほとんどをVKAコントロールは介さなかった。
OBS Furushouら(2008)114)は、北陸心房細動試験(HAT trial)-1に登録された心房細動患者493例から65才以上の365例で抗凝固療法の実態調査を行った。ワルファリン投与例(抗血小板薬併用を含む)の比率では85才以上群36%は、65~69才群 68%、70~74才群 60%、75~79才群 56%、80~84才群 65%に比し有意に低率であった。抗血小板薬のみの投与例は85才以上群で40%と最も高率であった。CHADS2スコア別のワルファリン投与例の比率は85才以上群で一定の傾向を認めなかった。
OBS Senooら(2017)86)は、Lipらと協力して、心房細動の高齢者(75才以上)における脳卒中と死亡について、Fushimi AF Registry(1791例)とDarlington AF Registry(1338例)の日英の観察研究データを比較、検討した。多変量解析で脳卒中も死亡も日英の民族性に関連しなかった。抗凝固療法を受けていない高齢者のサブグループ解析では、脳卒中の既往が脳卒中のリスク(オッズ比 2.42、95%信頼区間1.39-4.12、P=0.002)と関連していたが、民族性は関連しなかった。
【参考文献】 [文献請求番号]
18)Mant J et al. : Lancet, 370, 493(2007) WF-2600
81)Rash,A. et al.: Age Ageing, 36, 151(2007) WF-2537
82)Johnson,C.E. et al.: J.Am.Geriatr.Soc., 53, 655(2005) WF-2036
83)Poli,D. et al.: Circulation , 124, 824(2011) WF-3669
84)Hylek,E.M. et al.: Circulation, 115, 2689(2007) WF-2536
85)Kooistra,H.A.M. et al.: JAMA Intern.Med., 176, 1176 (2016) WF-4444
86)Senoo,K. et al.: Heart, 102, 1878 (2016) WF-4475
114)Furushou,Hiroshi et al.: Circ.J., 72, 2058(2008) WF-2918
【更新年月】
2021年1月