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  • 公開日時 : 2017/10/17 00:00
  • 更新日時 : 2021/03/18 08:03
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【ワーファリン】 II‐4.3.ワルファリンの代替療法の探索(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)

【ワーファリン】 
 
II‐4.3.ワルファリンの代替療法の探索(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
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回答

1)抗血小板薬
・心房細動治療に抗血小板薬を含まない国内ガイドライン

国内の「心房細動治療(薬物)ガイドライン」1)には、アスピリンなどの抗血小板薬は「心房細動における抗血栓療法」には含まれていない。心房細動と抗血小板療法は、AFASAK10) 、SPAF-Ⅰ14)、Ⅱ15)、Ⅲ16)以降、アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の2剤併用をACTIVE-W19)で検討されたが、代替療法とはならなかった。


・DAPT療法はワルファリンに及ばず、日本人でのアスピリン投与は予防効果示さず

ACTIVE-W19)において非弁膜症性心房細動症例にアスピリンとクロピドグレルを併用投与(DAPT療法)してもワルファリンの脳梗塞予防効果には及ばないことが示された。一方、JAST研究57)でアスピリンを日本人の心房細動患者に投与しても脳梗塞予防効果はなく、重篤な出血性合併症を増やす結果を示した。


 

2)抗血小板薬との併用療法

「Ⅲ-19ワルファリンと抗血小板薬の併用効果について」の項 参照

・単独治療群により示された心房細動におけるワルファリン療法の有効性

心房細動におけるワルファリン療法は、多くの比較試験でワルファリン単剤の治療群として有効性を示してきた。AFASAK10)、BAATAF11)、SPINAF12)、CAFA13)、SPAF-Ⅰ14)、Ⅱ15)、Ⅲ16)、ACTIVE-W19)など、すべて単独治療群としての有用性である。


・抗血小板薬併用による有効性(上乗せ効果)は認られず、出血リスク増大

一方、アスピリン等の抗血小板薬の併用による上乗せ効果を期待した検討16)でも、出血リスクを大幅に増加させるものの、有効性の向上を認めなかった。


・2000年代の半ばから抗血小板療法の併用を避けるべきとの見解

2000年代の半ばには、抗血小板療法が必須となる対象疾患以外では併用を避けるべきとの見解58), 59), 60), 61)が示され、その後の臨床研究62), 63), 64)ではその見解を支持する結果が報告されてきた。


・抗血小板療法が必須とされるPCI施行やステント留置の患者が臨床上の課題

一方、抗血小板療法が必須とされる対象として、心房細動を有するPCI施行やステント留置の患者が増加しており、アスピリン投与やアスピリン+クロピドグレル2剤投与の抗血小板療法を考慮すべき場合がある。これらの対象に対して、ワルファリンと抗血小板薬の抗血栓療法へ如何に対応するべきかが臨床上の課題となっている。

 

・観察研究からのデータ

OBS ORBIT-AF Registry(2013)62)では、観察研究にて心房細動で経口抗凝固療法施行中の患者は、心血管疾患などの合併症がなくても抗血小板薬併用されており、経口抗凝固薬とアスピリンの併用は出血リスクを有意に増加させたと報告し、経口抗凝固薬を服用中の心房細動患者に対するアスピリンの追加によるベネフィットがリスクを上回るかどうか慎重な判断を要するとの見解であった。


OBS Azoulayら(2013)63)は、大規模データベースによるケースコントロール研究にて、抗血栓療法の投与群は抗血栓療法群に対して有意な出血リスク増加を認め、2剤、3剤併用でさらに出血リスク増加を認めたことを報告した。 


OBS Hansenら(2010)64)は、大規模データベースによるコホート研究にて、心房細動による初回入院後に生存退院した患者のワルファリン、アスピリン、クロピドグレルによる非致死性および致死性出血リスクを解析した。併用投与では非致死性および致死性出血リスクを上昇させ、特にワルファリンとクロピドグレルの併用と3剤併用はワルファリン単独に比べて出血リスクを3倍以上に上昇させたと報告した。


OBS Shiremanら(2004)65)は、観察研究として、ワルファリン投与中の高齢の心房細動患者における重大な出血事故にて抗血小板薬併用の影響を検討した。重大な出血事故(退院後90日以内/180日以内)は抗血小板薬併用群では1.9%/2.8%、非併用群では1.3%/2.0%、脳出血発生率は抗血小板薬併用群が約3倍であった。90日以内の重大な出血事故発生の危険因子は女性、高齢者、貧血、出血既往歴、抗血小板薬併用であった。


OBS J-RHYTHM Registryにて、Watanabeら(2016)48)は、心房細動患者6074例におけるビタミンK拮抗薬(ワルファリン)へのアスピリン追加の実質的な臨床上のベネフィットを検討した(ビタミンK拮抗薬単独群83%、ビタミンK拮抗薬+アスピリン併用群17%)。ビタミンK拮抗薬+アスピリン併用のネットクリニカルベネフィットを生じなかった。結論の最後で、安定した冠動脈疾患を有する心房細動患者ではビタミンK拮抗薬単独治療で管理すべきであるとまとめている。


OBS Senoo、Lipらの日英の観察研究データの比較研究 86)の中で、心房細動の高齢者(75才以上)にて、抗凝固薬と抗血小板薬の併用率は日本のFushimi AF Registry(1791例)で抗凝固薬993例中270例、英国のDarlington AF Registry(1338例)で抗凝固薬647例中64例と報告している。


 

3)新規の経口抗凝固薬(抗トロンビン薬、Ⅹa阻害薬)

・代替療法として新たな経口抗凝固薬が加わり、治療の選択肢が拡大

抗トロンビン薬(ダビガトラン:Dabigatran、キシメラガトラン:Ximelagatran)やⅩa阻害薬(リバーロキサバン:Rivaroxaban、アピキサバン:Apixaban、エドキサバン:Edoxaban)などの薬剤がワルファリンの代替療法として検討され、非弁膜症性心房細動の脳卒中予防に対して、ワルファリンとの非劣性が証明され、臨床で使用されるようになった。


・新規の経口抗凝固薬の名称(略称)にDOACが支持

新規の経口抗凝固薬の名称(略称)について2015年6月国際血栓止血学会から「DOAC」の使用推奨の声明が出された。「NOAC(novel/new oral anticoagulant、non-VKA oral antagonist)」などの名称は、直接的な作用機序を示してないことやnon anticoagulantと誤解などを背景に「DOAC(direct oral anticoagulant)」の名称が学会内で最も支持された。


・DOACとの比較臨床試験からのデータ

RCT Connollyら(2009)66) (試験デザイン67))は、RE-LY研究として非弁膜症性心房細動患者にて、ダビガトラン(220 mg/日、300 mg/日)とワルファリン(目標INR 2.0~3.0)の脳塞栓症予防効果について無作為割付による比較試験を実施した。


RCT Patelら(2011)68)は、ROCKET AF研究としてCHADS2スコア2以上の非弁膜症性心房細動にて、リバーロキサバン(20 mg/日、クレアチニンクリアランス30~49 mL/分では15 mg/日)とワルファリン(目標INR 2.0~3.0)の脳卒中、全身性の塞栓症の予防効果について二重盲検による比較試験を実施した。


RCT Horiら(2012)69)は、J-ROCKET AF研究として非弁膜症性心房細動患者の脳卒中、全身性の塞栓症の予防効果についてリバーロキサバン(15 mg/日、クレアチニンクリアランス30~49 mL/分では10 mg/日)をワルファリン(目標INR 70才未満、2.0~3.0、70才以上 1.6~2.6)との二重盲検による比較試験を実施した。


RCT Grangerら(2011)70)は、ARISTOTLE研究としてCHADS2スコア1以上の非弁膜症性心房細動患者の脳卒中または全身性の塞栓症発症の予防効果をアピキサバンとワルファリン(目標INR2.0~3.0)の二重盲検による比較試験を実施した。


RCT Giugliano ら(2013)71)は、ENGAGE AF-TIMI 48研究としてCHADS2スコア2以上の非弁膜症性心房細動の脳卒中・全身性塞栓症の予防効果について、エドキサバン(30mg/日、60mg/日)とワルファリン(目標INR2.0~3.0)の二重盲検による比較試験を実施した。

 

・肝毒性などで開発中止となったキシメラガトラン

キシメラガトランXimelagatranについては、SPORTIF-2、SPORTIF-3、SPORTIF-5研究72), 73), 74)として非弁膜症性心房細動の脳卒中・全身性塞栓症について検討されてきたが、肝毒性などの安全性の課題により開発中止にとなっている。しかし、その後の臨床研究の方向性に影響を与えたと考えられる。


・DOACとの比較臨床試験のメタ解析からの概要

Meta Ruffら(2014)75)は、心房細動患者で実施したワルファリンとダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの臨床第3相試験のメタ解析を行った。新規経口抗凝固薬とワルファリンの有用性を比較した。検討対象の試験はRE-LY66)、ROCKET-AF68)、ARISTOTLE 70)、ENGAGE AF-TIMI4871)。ダビガトランは300mg/日、エドキサバンは60mg/日のデータをメタ解析に用いた。脳卒中+全身性の塞栓症は、リバーロキサバン、エドキサバンではワルファリンと有意差はないが、DOAC全体ではワルファリンに有意に優った。これは主に脳出血がDOACで有意に少なかったことによると思われた。

DOAC全体では、ワルファリンと比べ脳梗塞、心筋梗塞の発症には有意差はなく、全死亡と頭蓋内出血は有意に少なく、消化管出血は有意に多かった。大出血はアピキサバン、エドキサバンはワルファリンより有意に少なかったが、DOAC全体では有意差はなかった。また、脳卒中+全身性の塞栓症、大出血について層別解析を行った。DOAC低用量(ダビガトラン220mg/日とエドキサバン30mg/日)とワルファリンを比較すると、脳卒中+全身性の塞栓症には有意差はなく、出血は有意に少ないが、脳梗塞は有意に多いとの結果であった。


・各試験についてレビュー、メタ解析を行ったその他の報告

Review Lipら(2010)76)は、非弁膜症性心房細動患者を対象とし、心筋梗塞の発症について2000年以降に論文発表されたワルファリンとの抗血栓薬の比較試験にて検討した。検討に用いた試験は、SPORTIF-3 (キシメラガトラン)、SPORTIF-5(キシメラガトラン)、Amadeus試験 (イドラパリヌクス)、RE-LY(ダビガトラン)、ACTIVE-W (クロピドグレル+アスピリン)である。心房細動患者の脳卒中予防にて、ワルファリンは他の抗血栓薬と比較して心筋梗塞の保護効果の可能性が考えられた。


Meta Assiri ら(2013) 77)は、非弁膜症性心房細動の脳梗塞の一次/二次予防における抗血栓療法の効果をプラセボまたは実薬同士で比較した論文を抽出し、メタ解析を用いて直接または間接比較した。

非弁膜症性心房細動における血栓塞栓症の予防において、ワルファリンの有効性に一致した見解が得られている。

 

・DOACの臨床試験と実臨床のギャップ

その後成分毎に解決した課題も含まれている。DOAC承認当初に考察された課題などがまとめられている。

Review Hylekら(2014)78)は、総説にて以下に焦点を当て、DOACの臨床試験と実臨床のギャップを論じた。

 

・ワルファリン群の大出血の頻度

DOACの各試験での大出血は、RE-LY 3.36%/年66)、ROCKET-AF 3.40 %/年68)、ARISTOTOLE 3.09 %/年70)、ENGANE 3.43 %/年71)であり、日常診療では3%は考えにくく、厳格に管理された臨床試験にもかかわらず、高頻度であったと考えられる。たとえば、DOACの一連の試験が開始される数年前に行われたSPORTIF-579)やACTIVE W19)では、大出血2.81、2.21%/年であった。


・ワルファリン群の頭蓋内出血は従来の約1.5倍以上の頻度

DOACの各試験での頭蓋内出血は、RE-LY 0.74 %/年66)、ROCKET-AF 0.70%/年68)、ARISTOTOLE 0.80%/年70)、ENGAGE 0.85 %/年71)であった。一方、Linkinsら(2010)80)のメタ解析では、これまでの心房細動に対する無作為割付臨床試験での頭蓋内出血の頻度は0.45%/年と報告している。メタ解析の対象試験の中でRE-LY 66)などの試験の直前に行われたSPORTIF-579)やACTIVE W19)では、頭蓋内出血0.28、0.49 %/年であった。また、国内の大規模観察研究であるJ-RHYTHM Registry34)のデータから換算すると1年当たりの頭蓋内出血は約0.40 %/年となる。これらを目安とした安全管理が求められるが、一連の臨床試験では0.7%/年を上回る頻度であった。


・30-50%に及ぶ抗血小板薬併用率

上記のDOACの臨床研究とこれまでの心房細動に対するワルファリンの臨床研究と異なる点として、これまで抗血栓療法として比較対照であった抗血小板薬は、ワルファリン群では併用無しであった。しかし、DOACのいずれの試験も抗血小板薬の併用を認め、医師の裁量に委ねられ、概ね30~50%の症例に抗血小板薬が併用されている。


・ワルファリン療法への抗血小板薬の併用は、有効性に寄与せず、出血リスクを増加

ワルファリン療法に対する抗血小板薬の併用については、多くの一致した見解58), 59), 60), 61)として、有効性に寄与しないこと、安全性では出血リスク増加が認められることから、適正な処方理由のない併用を生じないように注意する必要がある。なお、抗血小板薬併用による有効性の上乗せ効果を認めた報告(ステント留置例、人工弁置換術後の一部)は限定的である。J-RHYTHM Registry34), 48)では、17%程度の併用が報告されている。併用理由が明確でない症例は、適正使用上の重要な課題である。


・DOACの臨床試験のワルファリン投与群と実臨床の標準治療との相違

被験者の安全を考慮した除外基準や管理された治療群による臨床試験と考えるが、使用理由の不明確な抗血小板薬の併用症例が混在することに加え、試験薬が2mg錠のみで2mg単位以上での用量調節などのケースも知られている。国内では0.5mg以下の用量調節が可能な製剤があり、実臨床とは異なる用量調節を回避すべきであり、少なくとも日常再現されないようにワルファリンの適正使用上、注意が必要である。


・DOACによる課題の解決から、期待される血栓塞栓症の予防の普及向上

ワルファリンは血液凝固能のモニタリングが必要なこと、薬物や食物との相互作用が多いことなどの課題があるため、適応と考えられる患者に対してワルファリンが十分に使用されていないとの報告20)がある。DOACがワルファリンの課題を補うことができれば、非弁膜症性心房細動における血栓塞栓症の予防の普及向上につながることが期待される。


・欧米と異なるアジアの成績、またアジアと異なる日本の成績

日本の医療環境、医療実態、医療のレベルなどとは異なる点が大きく、ワルファリン療法におけるモニタリングの緻密さ、丁寧さなど、日本の優れた点も考慮すると、アジア人、東アジア人などのように同じ地域あるいは同じモンゴロイド主体の集団などの分類でまとめ、評価するのは困難でその解釈には注意が必要である。
 

【参考文献】    [文献請求番号]
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【図表あり】
 
【更新年月】
2021年1月