・ワルファリン療法における日本人に適した治療域
国内のガイドライン「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」1)では、ワルファリン療法時の PT-INR を 2.0~3.0 での管理とし、70才以上の非弁膜症性心房細動患者へのワルファリン療法時の PT-INR 1.6~2.6 での管理としている。
・海外のガイドラインACCPやAHA/ACCでは治療域はINR 2.0~3.0
心房細動に対する複数の大規模臨床試験の結果に基づき、米国胸部疾患学会(ACCP)のエビデンスに基づいた診療ガイドライン「心房細動に対する抗血栓療法」(2004)2) (2008)3) (2012)4)やAHA/ACC Foundation Guide to Warfarin Therapy (2003)5)では、INR 2.0~3.0を治療域とし、リスクを有する対象への適応が推奨されてきた。
・血栓塞栓症に対する危険因子
非弁膜症性心房細動における血栓塞栓症(脳梗塞など)に対する危険因子としてACCP2), 3), 4)やAHA/ACC5)により1.一過性脳虚血発作、脳梗塞の既往歴、2.高血圧症、3.糖尿病、4.冠動脈疾患、5.左室機能不全、6.高齢(75才以上)が提唱されてきた。
・脳梗塞のリスク評価に用いられるCHADS2スコア
ACC/AHA/ESCのガイドラインでは、リスク評価にCHADS2スコアを用いている。最近では、冠動脈疾患、女性、年齢65才以上のリスク項目を追加したCHA2DS2-VAScスコアとして検討され、評価に用いられる場合もでてきた。
『循環器病の診断と治療に関するガイドライン』「心房細動治療(薬物)ガイドライン」(2013年改訂版)1)ではCHADS2スコアなどの考え方を取り入れ、新規経口抗凝固薬も加え、日本人の「心房細動における抗血栓療法」が記載されている。ワルファリンは、リスク評価にてCHADS2スコア、2点以上が推奨され、1点は考慮可、0点ではその他のリスクとして「心筋症」「65≦年齢≦74」もしくは「心筋梗塞の既往、大動脈プラークおよび末梢動脈疾患」を有する際に考慮可とされる。
・出血リスク評価に用いられるHAS-BLEDスコア
出血リスクを評価するためにHAS-BLEDスコアが提唱されており、Lipら(2011)6)は、SPORTIF-3、SPORTIF-5試験のデータを用いて臨床適用の可能性について報告している。3点以上を高リスクとして取り扱っている。
・リスク評価スコアの有用性検討
心房細動における脳梗塞のリスク評価に用いられるCHADS2スコアの他にさらに低リスクを詳細に評価するためCHA2DS2-VAScが提案され、HAS-BLED やHEMORR2HAGESなどの出血のリスクスコアと共に、スコアの評価7), 8)が行われている。Okumuraら(2014)9)は、J-RHYTHM Registryに登録した非弁膜症性心房細動患者で、血栓塞栓症リスクを評価するCHA2DS2-VAScスコア、出血リスクを評価するHAS-BLEDスコアの改変版を用い、両スコアの有用性を検証した。
・日本の人口動態統計での脳梗塞の年間死亡率
1990年代後半の8万5千人前後から2014年の6万5千人へと脳梗塞の死亡数は減少している。一方、脳出血が増加したとの傾向は見られない。脳梗塞予防、脳梗塞発症後の治療の進歩などとともに、抗血栓療法もその一端を担っていると考えられる。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)井上 博ら: 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版), 1(2013) WF-4053
2)Singer D.E. et al.: Chest, 126, 429S(2004) WF-2236
3)Singer,D.E. et al.: Chest, 133, 546S(2008) WF-3003
4)You,J.J. et al.: Chest, 141, e531S(2012) WF-3662
5)Hirsh J et al.: Circulation, 107, 1692(2003) WF-1665
6)Lip,G.Y.H. et al.: J.Am.Coll.Cardiol., 57, 173(2011) WF-3521
7)Friberg,L. et al.: Eur.HeartJ., 33, 1500(2012) WF-4114
8)Seet,R.C.S. et al.: J.Stroke Cerebrovasc.Dis., 22, 561(2013) WF-4252
9)Okumura,K. et al.: Circ.J., 78, 1593(2014) WF-4270