冠動脈バイパス術(CABG)後の抗血栓療法としては、多くはアスピリンが選択され、現在では抗凝固薬は必須として選択されることはない。ワルファリンがグラフト開存や二次予防のベネフィットと出血性合併症のリスクとのバランスが明確でなく、使用にあたっては様々な要因を考慮する必要がある。CABG術後, 弁置換術後や心房細動などでワルファリンが必要な患者以外、ワルファリンの使用は推奨されていない。
・主な臨床試験
RCT McEnanyら(1982)39)は、CABG術後の約2年の成績を無作為割付によりプラセボ、ワルファリンとアスピリンを比較した。ワルファリンがグラフト開存率に改善傾向を示したが、統計学的な有意差はなく,大出血の合併症が認められた。
RCT Post CABG(1997)40)では、CABG施行患者にて、積極的にLDLコレステロールを低下させた場合、中等度に低下させた場合とワルファリン投与群(目標INR<2)、プラセボ群を2×2 factorialデザインで無作為割付により比較検討した。アテローム動脈硬化症の発生は積極的に低下させた方が低かったが、ワルファリン群(平均INR 1.4)とプラセボ群(平均INR 1.1)では冠動脈造影上の有意差は認められなかった。
RCT Huynhら(2001)41)はCABG後の不安定狭心症または非ST上昇型心筋梗塞患者135例をアスピリン単独群、ワルファリン単独群、アスピリンとの併用群にて、二重盲検による無作為割付試験にて検討した。目標INR2.0~2.5のワルファリン単独投与あるいは低用量アスピリンとの併用投与の効果が低用量アスピリン単独を上回ることはなかった。
・観察研究
OBS Biancariら(2010)66)は、2005~2008年にワルファリン長期投与中の冠動脈バイパス術施行群162例、術前ワルファリン服用がない群(対照群)162例の術後早期の転帰を比較した。1年後94.3%がワルファリン継続中、対照群の5.7%がワルファリンを導入され、両群の転帰に有意差はなかった。冠動脈バイパス術施行前にワルファリンの短期休薬(急性冠症候群による緊急手術、機械弁置換術のみエノキサパリンによるブリッジング、その他はなし)で術後出血は増加しないと報告した。
【参考文献】 [文献請求番号]
39)McEnany,M.T. et al.: J.Thorac.Cardiovasc.Surg., 83, 81(1982) WF-0213
40)Campeau,L. et al.: N.Engl.J.Med., 336, 153(1997) WF-4132
41)Huynh,T. et al.: Circulation, 103, 3069(2001) WF-4358
66)Biancari,F. et al.: Ann.Thorac.Surg., 89, 1139(2010) WF-3260
【更新年月】
2021年1月