[相互作用を示す薬剤名(代表的商品名)]
〔薬効分類 243 甲状腺、副甲状腺ホルモン剤〕
[相互作用の内容]
本剤の作用を増強(変動)させる。
【プロピルチオウラシル、チアマゾールの添付文書に併用注意の記載がある】
[併用時の注意]
甲状腺機能亢進症の患者は、心房細動を合併することがあり、塞栓症を防ぐために本剤を投与することがある。甲状腺機能が亢進すると凝固因子の合成・異化排泄の亢進により、相対的に本剤の作用が増強する。
甲状腺機能亢進症の患者に本剤を投与するときは、通常の投与量に比べ少量でよいと思われる。
抗甲状腺製剤を投与し甲状腺機能が正常化したときは、本剤を増量する必要が生じる可能性がある(見かけ上の本剤の作用減弱)。
併用開始時、中止時に加えて、病態の変化に応じて血液凝固能が変動するので、血液凝固能検査値の変動に十分注意し、必要があれば本剤の用量調節を行う。
[相互作用の機序]1)
甲状腺機能亢進症の患者では凝固因子が低下し、相対的に本剤の効果が増強する。
抗甲状腺製剤投与で甲状腺機能が正常化すると、増強されていた本剤の効果が減弱する可能性がある。
プロピルチオウラシル、チアマゾールの副作用である低プロトロンビン血症により出血傾向を助長する。
[相互作用の事例]
<臨床研究報告>2)【131Iでの甲状腺機能正常化によるワルファリンの作用減弱】
甲状腺機能亢進症患者5例に、ワルファリンを体表面積1m2あたり40mg単回投与した。次いで131I(抗甲状腺製剤)で治療を行い、3ヵ月後には血清チロキシン値は治療前の16μg/dLから10μg/dLに有意に低下した。治療後に再度、同じ量のワルファリンを投与した。ワルファリン投与によりプロトロンビン時間が2倍になるのに要した時間は、治療前の24時間から治療後は31時間へと、有意に延長した。ワルファリンの半減期は、治療前の44時間から治療後は126時間へと、有意な延長を示した。血中ワルファリン濃度は、投与12時間後では治療前5.1μg/mL、治療後6.1μg/mLで有意な差はないが、投与24時間後では治療前の4.2μg/mLと比べ、治療後は5.5μg/dLと有意に高値であった。甲状腺機能の亢進時は、ワルファリンに対する反応性が増大していると示唆された。(海外)
但し、このデータはワルファリンのSおよびR異性体を分別定量しておらず、現在のレベルでは解釈困難である。
<症例報告事例>3)【131Iでの甲状腺機能正常化によるワルファリンの作用減弱】
グレーヴス(バセドウ)病の40才男性。心房細動、甲状腺機能亢進で加療中に入院、グレーフェ症状、眼球突出、甲状腺拡大を示し、蛋白結合ヨード(PBI)は11.6μg/100mLで、心房細動、心筋梗塞、動脈塞栓症を認め、塞栓を摘出した。約1ヵ月後、ワルファリン、ジゴキシン、メチマゾール(抗甲状腺製剤、本邦販売なし)30mg/日の処方で退院、甲状腺機能は間もなく正常化した(PBI 5.6μg/100mL)。続く6週でメチマゾールを10mg/日に漸減、PBIは2.6μg/100mLとなった。プロトロンビン時間は治療域で安定していた。次いでメチマゾールを中止、プロプラノロール30mg/日を開始し、131I(抗甲状腺製剤)で治療した。その後心拍数増加、甲状腺中毒症状を来たし入院した際、PBIは20μg/100mL、プロトロンビン時間は40.8秒であった。ワルファリンを2日休薬、プロトロンビン時間が26.8秒となったので2.5mgを再投与した。プロトロンビン時間は33.7秒となり、ワルファリンを2日休薬して17.4秒となった。メチマゾールを30mg/日で再開、プロプラノロールを80mg/日に増量、ワルファリンを5mg/日として退院した。その後PBIは1.8μg/100mLとなり、プロプラノロールを10mg/日に漸減、メチマゾールは中止した。3週後、プロトロンビン時間は63秒となった際、甲状腺機能亢進を認めた。131Iで治療し甲状腺機能が正常化すると、プロトロンビン時間は短縮した。(海外)
【参考文献】 [文献請求番号]
1)USP-DI,22nd ed.,Vol.Ⅰ, 265(2002) WF-1157
2)McIntosh TJ et al.: J. Clin. Invest., 49, 63(1970) WF-0532
3)Vagenakis AG et al.: Hopkins Med. J., 131, 69(1972) WF-0591
[相互作用を示す薬剤名(代表的商品名)]
〔薬効分類 243 甲状腺、副甲状腺ホルモン剤〕
[相互作用の内容]
本剤の作用を増強する。
【乾燥甲状腺、リオチロニン、レボチロキシンの添付文書に併用注意の記載がある】
[併用時の注意]
甲状腺機能の低下している患者に本剤を投与する時は、大量投与が必要となる。
甲状腺製剤を投与して甲状腺機能が正常化すると、本剤の作用が増強する。
甲状腺機能低下症患者に本剤を投与する時は、先に甲状腺製剤を投与し、甲状腺機能を正常に安定化させた後に投与するのが望ましい。
また甲状腺製剤の投与を中止する時は、本剤の増量を要する可能性があるので、頻回(2~3回/週)に血液凝固能検査を実施し、その変化に応じて投与量を再設定すること。
[相互作用の機序]1,2)
甲状腺製剤が血液凝固因子の合成または異化を変化させる。
甲状腺製剤が本剤の作用部位への親和性を増加させる。
[相互作用の事例]
<症例報告事例>3)【リオチロニンでの甲状腺機能正常化によるワルファリンの作用増強】
粘液水腫の7例に、ワルファリンを体表面積1m2あたり40mg単回投与した。次いでリオチロニン50~100μg/日投与による治療を開始した。3ヵ月後と6ヵ月後に、同じ用量のワルファリンを再度単回投与した。リオチロニン投与で、全例に臨床的に著明な改善効果を得た。リオチロニン治療開始前、ワルファリン投与によってプロトロンビン時間は最大で8秒延長し、プロトロンビン時間に及ぼす効果は投与72時間後に最大となった。リオチロニン投与3ヵ月後、6ヵ月後では、ワルファリンの最大効果は投与53時間後となり、プロトロンビン時間はワルファリン投与前と比べて各々最大で9.5秒、11秒延長した。ワルファリン投与後のプロトロンビン時間-時間曲線下面積は、リオチロニン治療後に有意に増大した。粘液水腫の患者ではワルファリンへの反応性が低下していると考えられた。(海外)
<症例報告事例>4)【チロキシンでの甲状腺機能正常化によるワルファリンの作用増強】
13才女児。低身長、成長不全の症例で、5才時のファロー四徴症根治術施行後、ジゴキシンとスピロノラクトンの投与を開始、11才時の大動脈弁・肺動脈弁の置換術後に、ワルファリン7.5mg/日の投与を開始し、プロトロンビン時間はコントロール比1.5~2.0倍としていた。13才時、自己免疫性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症の診断にて、L-チロキシン150μg/日の投与を開始。1ヵ月後、10日前より持続する右前頭部痛、嘔吐、嗜眠で受診。この3日前より、服薬も出来なくなっていた。CTにて巨大な右硬膜下血腫とクモ膜下の小さな出血が認められた。プロトロンビン時間は、L-チロキシン投与開始前6ヵ月は15.5~28秒(平均18秒)であったが、35秒に延長しており、部分トロンボプラスチン時間も95秒であった。ワルファリンを中止し、ビタミンK1を5mg投与した。4.5時間以内にプロトロンビン時間は14.3秒、部分トロンボプラスチン時間は40.8秒となった。血腫は外科的に除去した。2週後には良好な回復を示し退院、ワルファリンを7.5mg/日で再開した。併用薬は不変とした。6ヵ月後、ワルファリン必要量は5mg/日となった。(海外)
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Solomon HM et al.: Clin. Pharmacol. Ther., 8, 797(1967) WF-0718
2)USP-DI,22nd ed.,Vol.Ⅰ, 265(2002) WF-1157
3)Rice AJ et al.: Am. J. Med. Sci., 262, 211(1971) WF-0536
4)Costigan DC et al.: Clin. Pediatr., 23, 172(1984) WF-1723