ビタミンKの代謝障害では、非コラーゲン性の骨基質蛋白であるオステオカルシンのカルボキシル化が低下するが、正常な骨形成にはオステオカルシンが十分なカルボキシル化をうけている必要があると言われている。
ワルファリンによる胎児障害などの催奇形性を示す臨床的な所見が報告され、さらには正常な骨形成に必要とされる骨蛋白であるオステオカルシンにワルファリンのビタミンK拮抗作用が悪影響を及ぼす可能性が示唆されている1)。
ここで問題となるのは、ビタミンK依存性血液凝固因子のカルボキシル化を阻害するワルファリンが、臨床的に問題となるほどの急速な骨量減少を生じるか否かである。
Piroら2)の報告では、ワルファリンを成人に長期投与しても、皮質骨には悪影響を生じないように思われ、ワルファリンは、臨床的に重大な骨密度の減少をおこさずに数十年間投与することができるとしている。
また、Jamalら3)は65才以上の女性6201例でワルファリンの長期投与は骨密度や骨折頻度に影響しなかったと報告している。
一方、Philipら4)はワルファリン療法をうけていた男性患者40例と対照男性40例を対象とし、海綿骨と皮質骨の骨密度(BMD)を測定した結果、ワルファリン群では、BMDが低下する傾向がいずれの測定部位でも例外なく認められ、この低下は橈骨遠位部(9%の低下)と海綿骨が豊富な腰椎(10.4%の低下)で特に顕著であったと報告している。
さらに、Fioreら5)は心臓弁置換術後に抗凝固薬としてアセノクマロール(クマリン系抗凝固薬:本邦販売なし)を投与された女性患者56例と、ニューヨーク心臓病協会(NYHA)の分類が同一であるが抗凝固薬の投与はうけていない同等年齢の女性61例を対象に検討をおこなっている。血清中のオステオカルシン濃度は両群で同様であったが、四肢の骨で測定したアセノクマロール群での骨密度は対照群を有意に下回っていたとしている。さらに、経口抗凝固薬を投与中の女性では、BMDに有意な低下が認められたが、投与期間と骨密度との間には有意な相関性は認められなかったとしている。
ワルファリン長期投与中の高齢者の骨粗鬆症関連骨折の発生リスクは、ワルファリン非投与群に比べ有意に高い(オッズ比1.25)とのコホート研究が報告されている6)。
ワルファリン長期投与中の小児では、腰椎のみかけの骨密度がワルファリン非投与群に比べ有意に低いとのケースコントロール研究が報告されている7)。
以上のように相反する報告があり、今後同一疾患群でプロスペクティブに調査を行い、評価する必要がある。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Obrant KJ et al.: J. Bone Miner. Res., 14, 555(1999) WF-1194
2)Piro LD et al.: J. Clin. Endocrinol. Metab., 54, 470(1982) WF-0926
3)Jamal SA et al.: Ann. Intern. Med., 128, 829(1998) WF-1098
4)Philip WJU et al.: Q. J. Med., 88, 635(1995) WF-0920
5)Fiore CE et al.: South. Med. J., 83, 538(1990) WF-0927
6)Gage BF et al.: Arch. Intern. Med., 166, 241(2006) WF-2288
7)Barnes C et al.: Pediatr. Res., 57, 578(2005) WF-2289
【更新年月】
2021年1月