長期投与で抗凝固薬を急に中止すると、リバウンド現象が生じ、血栓塞栓症が増加するとの考えが従来より危惧されている。しかしながら、van Cleveら1)の報告では以下のように急激な中止による血栓塞栓症の頻度増加は明らかではないとされる。
149名の患者を対象に、ワルファリンによる長期抗凝固薬療法を中止したときの影響についての研究を行った。心筋梗塞の既往があり抗凝固薬療法を継続している42名の患者群と心筋梗塞の既往があり治療を中止した患者群とを比較したが、リバウンド現象による血栓塞栓症を示す証拠は認められなかった。また、抗凝固薬療法を継続した群と中止した群との間で、1年間の追跡調査期間中の梗塞ないし脳卒中の再発または死亡率に関して差異は観察されなかった。この結果は、血栓症発症の増加の危険を伴わずに長期抗凝固薬療法を中止できる可能性があることを示唆した。なお、この問題をさらに明らかにすることを提案している。
また、Wesslerら2)はワルファリンを中止すると凝固因子は正常以上に増加するものもあるが血栓症を引き起こすには及ばず、また、血栓症が生じたとしてもこれはワルファリン投与前の血栓性リスクを有する状態に戻ったためと考察している。
しかしながら、現在のところ十分な結論は得られておらず、プロテインC、D-dimerをはじめとする新規分子マーカーによる検討、あるいはこの現象を評価しうる血栓形成の動物モデルの検討が望まれる。
現時点では不明な点が多く、従って、ワルファリン投与中止の際は漸減中止によることが望ましい。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)van Cleve RB: JAMA, 1156(1966) WF-0060
2)Wessler S et al.: J. Am. Coll. Cardiol., 8, 10(1986) WF-0928
【更新年月】
2021年1月