ワルファリンに対する感受性は患者ごとに異なるが、ワルファリン耐性とは大量に投与してもワルファリンに対する反応性(治療効果)が著しく低い症例を示す1,2,3)。
ワルファリン耐性は、硝酸剤投与に見られるような、長期投与によって感受性が低下するものではない。
ワルファリンに対する反応性が低く、治療域へのコントロールが不良で十分な治療効果がえられない場合は日常よく見られる。見かけ上、ワルファリン耐性と疑われる点も含めて、下に示すような原因が考えられる。
一般に入院から外来での治療に移ったときには、コンプライアンス不良、ビタミンK過剰摂取によるコントロール不良のケースが見受けられる。特に薬剤の飲み忘れは少なくない。また、緑黄色野菜の大量摂取、納豆摂取のようにビタミンKの過剰摂取にも留意する必要がある5,6,7)。
一方、Pharmacokineticsの異常の中では、薬物相互作用によるケースが挙げられる。バルビツール酸誘導体のようなワルファリンの肝代謝酵素の誘導を引き起こす薬剤8)やコレスチラミンのようにワルファリンの吸収を阻害するような薬剤が考えられる。また、ホルモン剤などでは血中凝固因子量の増加に影響し、ワルファリンの作用を減弱するケースも報告されている。
このほかの原因として最終的に疑われるのが、遺伝的ワルファリン耐性と考えられる1,2,8)。ワルファリン耐性系統のラットも報告されている10)。
しかしながら、上記原因の除外が十分におこなわれた報告はほとんどない。日本人の通常の維持量は2~6mg/日であり、上記原因が除外された場合で9mg/日以上の投与を要するときは遺伝的ワルファリン耐性を疑う。
1964年から1995年までに発表されたワルファリン耐性23例のうち先天的・遺伝的な耐性を認めた症例は9例であった11)。また近年、ビタミンKエポキシドレダクターゼ複合体サブユニット1(VKORC1)の遺伝子変異が関与している症例が報告されている。
参考までに、いくつかの症例報告を示す。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Holt RJ et al.: Drug Intell. Clin. Pharm., 17, 281(1983) WF-0182
2)Diab F et al.: South. Med. J., 87, 407(1994) WF-0809
3)吉村 菜穂子ら: 診断と治療, 80, 1238(1992) WF-0770
4)Kumar S et al.: Thromb. Haemost., 62, 729(1989) WF-2310
5)Lee M et al.: Ann. Intern. Med., 94, 140(1981) WF-0178
6)Howard PA et al.: J. Am. Diet Assoc., 85, 713(1985) WF-0222
7)Walker FB: Arch. Intern. Med., 144, 2089(1984) WF-0913
8)Bentley DP et al.: Br. J. Clin. Pharmacol., 22, 37(1986) WF-1761
9)Alloza JL: Arch. Farmacol. Toxicol., 10, 45(1984) WF-0185
10)Misenheimer TM et al.: Biochem. Pharmacol., 40, 2079(1990) WF-0565
11)Hulse ML et al.: Pharmacotherapy, 16, 1009(1996) WF-1011
12)Brophy DF et al.: Pharmacotherapy, 18, 646(1998) WF-1129
13)Rost S et al.: Nature, 427, 537(2004) WF-2220
14)Bodin L et al.: J. Thromb. Haemost., 3, 1533(2005) WF-2221