ワルファリンは胎盤通過するため胎児への影響がある。
妊婦の抗凝固薬療法では、妊娠中、分娩時の母体出血、胎児の先天異常、胎児死亡、新生児死亡などのリスクがある。
催奇形性には、大きく2通りが知られている1)。
Hallら1)は妊娠中にワルファリン(418例)またはヘパリン(135例)を投与した症例について考察している。
ワルファリン投与群では、明らかな異常が見られなかった新生児は、293例(70%)であった。また、分娩4~5日前にワルファリンを中止した群では、出血を伴った症例はなかった。ヘパリン投与群では、出血、死産はあるものの先天異常は見られず、86例(63%)が異常のない新生児であった。また、早産が19例と多かった。
ワルファリンの投与時期により胎児に与える影響は異なる。
軟骨発育不全は、臨界期間が妊娠6~9週目と考えられる。Hallらの報告1)では、この時期のワルファリン投与を避けた妊婦で、軟骨発育不全はなく、この時期を避ける意義は大きい。
中枢神経系への影響は、胎児の血液凝固因子産生開始以降であれば、いつでも起こりうる。
母体への影響ではヘパリンの方が出血のリスクが高い。
参考までに複数症例を考察した報告を表に示す13,14,15)。
大谷ら13)の報告では9例、Sareliら15)の報告では49例が妊娠初期3ヵ月中にワルファリンを服用していた。Nassarら16)は人工弁置換術後の妊娠管理33例82妊娠について検討し、ワルファリン単独管理の群で自然流産が多く、出産の率が低いと報告している。(Ⅴ-1「妊婦への使用(禁忌)」の項参照)
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Hall JG et al.: Am. J. Med., 68, 122(1980) WF-0464
2)Zakzouk MS: J. Laryngol. Otol., 100, 215(1986) WF-0259
3)Tamburrini O et al.: Pediatr. Radiol., 17, 323(1987) WF-0361
4)Lamontagne JM et al.: J. Otolaryngol., 13, 127(1984) WF-0455
5)Ruthnum P et al.: Teratology, 36, 299(1987) WF-0493
6)Mason JDT et al.: J. Laryngol. Otol., 106, 1098(1992) WF-0772
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10)Kaplan LC et al.: Birth Defects, 18, 79(1982) WF-0184
11)稲垣 晴代ら: 日本新生児学会雑誌, 34, 831(1998) WF-1182
12)稲垣 晴代ら: 市立四日市病院雑誌, 13(2001) WF-1445
13)大谷 信一ら: 血液と脈管, 12, 49(1981) WF-0079
14)佐藤 芳昭ら: 日本産科婦人科学会雑誌, 33, 745(1981) WF-0162
15)Sareli P et al.: Am. J. Cardiol., 63, 1462(1989) WF-0800
16)Nassar AH et al.: Am. J. Obstet. Gynecol., 191, 1009(2004) WF-1885