手術時の対応については、術式による出血の可能性、出血した場合の止血の難易度、そして患者の血栓塞栓症のリスクなどを総合的に把握する必要がある。
出血が比較的生じにくく、止血が比較的容易に行える抜歯などの小手術については、ワルファリンの投与を継続して実施することが可能である。また、ポリペクトミー、内視鏡や腹腔鏡などのように侵襲部位が体内の場合は止血が難しい場合があるため注意が必要である。一方、ワルファリンの絶対適応例(機械弁置換例、再発性肺塞栓症、脳梗塞症の既往歴例、リウマチ性心疾患、再発性血栓塞栓症など)ではワルファリンの減量でさえ注意が必要である。
予定小手術では手術の4~5日前よりワルファリンの投与量を若干減量し、凝固能の抑制を一般にINRの治療域の下限近くまで緩和して行う1)。手術に際してもワルファリンの投与を続ける。出血が多い場合は、ワルファリン療法の中止、ビタミンK静注などを考慮する。ただし、抗凝固療法が不可欠で、ワルファリン療法を中止する場合は、十分なヘパリン投与を行う。
以前より、小手術及び診断法について最適治療域(表1)2)を参考としてきたが、各手術・手技の出血リスクにより、継続投与の可否や治療域の見直しが必要である。
皮膚切除術3,4)、前立腺レーザー照射療法5)において、ワルファリンの休薬継続に差がないとの報告がある。
肝生検6)においてワルファリン再開後に出血を起こしたとの報告がある。
抗凝固薬服用者の内視鏡治療時の管理に関し、日本内視鏡学会のガイドラインが報告されている7)。
ペースメーカー植込み2)では、INRを1.5以下にして行う。また、河野ら8)はペースメーカー植込み、白内障手術など非開腹手術7例、抜歯10例を含む処置について、抗凝固状態を維持する方法を報告している。
砂川ら9)はポリペクトミー施行時の管理について考察、報告しており、血栓塞栓症リスクの高い症例での対応について示している。
手の手術については、手根管開放術、デュピュイトラン拘縮の筋膜切開術・筋膜切除術において、INRが3以下の場合はワルファリンを中止しないで実施し、出血性副作用は認められなかったとの報告がある10)。
眼科的手術については、ワルファリン投与中に施行した硝子体手術の3例についての紹介がある11)。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)青﨑 正彦: JIM, 3, 419(1993) WF-0747
2)Loeliger EA et al.: Haemostasis, 15, 283(1985) WF-0931
3)Billingsley EM et al.: Dermatol. Surg., 23, 381(1997) WF-1057
4)Otley CC et al.: Arch. Dermatol., 132, 161(1996) WF-1052
5)Mueller EJ et al.: Tech. Urol., 4, 156(1998) WF-1148
6)Scott DA et al.: Am. J. Gastroenterol., 86, 503(1991) WF-0644
7)小越 和栄ら: Gastroenterol. Endosc., 47, 2691(2005) WF-2231
8)河野 博之ら: 日本心臓血管外科学会雑誌, 21, 245(1992) WF-1876
9)砂川 隆ら: Gastroenterol. Endosc., 40, 2159(1998) WF-1561
10)Smit A et al.: J. Hand Surg., 29B, 206(2004) WF-1894
11)細谷 比佐志ら:あたらしい眼科, 6, 1897(1989) WF-0613