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  • 公開日時 : 2019/04/04 00:00
  • 更新日時 : 2021/03/08 11:29
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【ワーファリン】 V‐13.周術期管理 ~ 眼科関連 (診療科・領域別)(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)

【ワーファリン】 
 
 V‐13.周術期管理 ~ 眼科関連 (診療科・領域別)(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)
 
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回答

眼科関連の手術には、白内障、緑内障、網膜・硝子体や眼形成などがあり、近年では白内障手術の件数が比較的多いと考えられる。眼科関連手術での出血には、前房出血、上脈絡膜腔出血など重篤なケースも認められる。

エビデンスは不十分であり、今後確固たる推奨が求められるが、現時点でいくつかの見解が報告されている。

 

1.ガイドライン

GL 米国胸部専門医学会(ACCP)ガイドライン(2012) 「抗血栓療法の周術期の管理」1,2)では、手術部位、術式などで出血リスクが異なり、白内障手術では出血リスクは非常に低く、網膜・硝子体手術や眼形成手術では出血リスク中~低程度としている。緑内障手術ではコンセンサスは得られていない。また、手術に付随する麻酔の影響についても考察されている。

GL 国内の「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009)」3)や「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」4)では、白内障手術では出血リスクの少ない手術手技であり、抗凝固療法継続下での手術が推奨されている。

出血リスクと血栓塞栓症リスクを考えるため、抗凝固療法の処方医と眼科領域の医師との相談や連携が不可欠であると考えられる。

2.総説など

総説として以下の報告がある。

Review Lipら(2011)5)は、眼科以外も含めて周術期の報告を分類評価し、麻酔やほとんどのタイプの手術手技では、治療域内INRの継続投与で重要な出血リスクの増加はしないとしている。

Review Kongら(2015)6)は、白内障、網膜硝子体、緑内障そして眼形成手術などの報告を整理し、出血リスクと血栓塞栓リスクを最小化する継続、中止及び再開のため推奨を提示している。

Review Kiireら(2016)7)は、眼科手術関連の周術期管理をまとめており、手術手技毎の出血リスクを適用疾患と抗凝固療法の種類と組み合わせ分類している。国内にそのまま適用できないが、大まかな目安として参考となると考え、表1に示した。

表1. 眼科手術 出血に対する、(抗凝固薬/抗血小板薬療法の患者に基づく)

 

 

3.白内障手術

OBS Katzら(2003)8)は、前向きコホート研究にて白内障手術でのワルファリやアスピリン投与が出血リスクを増加させないと報告した。なお、血栓塞栓症が継続投与で多かったのは選択バイアスの影響と考えた。

OBS Barequetら(2007)9)は、白内障に対する水晶体超音波吸引術の安全性について観察研究を行い、ワルファリン療法継続下(INR 3以下)で安全に施行可能と考えた。

OBS Kobayashiら(2010)10)は、ワルファリンかアスピリン投与中の白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術、眼内レンズ挿入術)施行患者で観察研究を行い、投与継続群と投与中止群で比べたが、術中術後の合併症や視力改善について有意差は認められなかったが、結膜下出血については継続投与群で有意に高かった。

Meta メタ解析として、Jamulaら(2009)11)は、白内障手術時のワルファリン療法継続の安全性について、MEDLINE及びEMBASEより2008年5週までのデータから11文献を抽出して検討している。ワルファリン継続は小出血の増加に関与するが、エビデンスレベルが低く、周術期の戦略を決定するには質の高いデータが求められる。

 

(国内報告)

OBS 矢坂ら(2008)12)は、白内障手術時の抗血栓療法の管理に関するアンケート調査を実施し、ワルファリン継続下での手術受入れは45施設中39例86.7%で、中止した症例はなかった。緑内障手術、硝子体手術では、抗血栓療法継続は各々10例、5例、中止は29例、31例であった。緑内障や硝子体の手術は、白内障の手術より出血を伴いやすいため、抗血栓療法継続下での手技受け入れが低かった推察している。

OBS Ong-Toneら(2005)13)は、カナダ白内障屈折手術学会の会員110名に白内障手術の周術期管理に関する質問を行い、白内障手術中にワルファリン、アスピリンのいずれも中止しない外科医が大多数であることを報告している。

4.網膜硝子体手術

OBS Dayaniら(2006)14)は、ワルファリン継続投与下での網膜硝子体手術54例57手技にて手術日のINRを分類し、術中・術後の出血性合併症ついて調査した。手術日INR 1.20~1.49のS群26手技、1.50~1.99のB群12手技、2.00~2.49のT群7手技、2.50以上のHT群12手技に分けた。術中合併症、麻酔合併症を発現した例は、4群ともなかった。術後出血はS群で2例(7.7%)、HT群で2例(16.7%)であり、B群とT群は無かった。術後出血はいずれも硝子体出血で自然消退した。ワルファリン治療でINRを治療域に維持しても網膜硝子体手術は安全に施行できると考えた。

OBS Fuら (2007)15)は、ワルファリン療法中に網膜硝子体手術を施行した25例を検討し、ワルファリンの休薬は必要ないと考えた。Ohら(2011)16)は、網膜硝子体手術の抗血栓療法に関するレトロスペクティブな観察研究(ケースコントロール)を行い、さらなるリスクの低減で安全に施行可能と考えた。

OBS Chandraら(2011)17)は、ワルファリン投与中の経毛様体扁平部硝子体切除術の症例群60例をケースコントロール研究で検討した。ワルファリンの継続投与による合併症の増加は認めなかった。なお、裂孔原性網膜剥離の患者28例では網膜出血が症例群12例、対照群4例であり、群間に有意差を認めた。手術前のワルファリン治療の中止を推奨できないとした。

OBS Masonら(2011)18)は、ワルファリンもしくはクロピドグレル継続下に施行した経毛様体扁平部硝子体切除術での出血性合併症頻度を検討した。ワルファリン61例64眼64手技で術中・術後の出血性合併症は一過性の術後硝子体出血のみで1/64手技(1.6%)であり、手術でのワルファリン継続を推奨した。

OBS Ryanら(2013)19)は、抗血栓薬継続下の網膜硝子体手術における術中 、術後の出血性合併症の頻度と危険因子についてプロスペクティブに85例を検討した。制御不能な術中出血や重篤な術後脈絡膜出血はなかった。ワルファリン群11例中、術中出血は2手技、術後出血は1手技に認め、継続投与で安全に実施可能との結論であった。


(国内報告)

OBS 新海ら(2011)20)は、網膜硝子体手術における抗血栓薬の影響をレトロスペクティブに37例について検討した。継続下での出血性合併症の頻度は少なく、ワルファリンは6例で出血はなかったが、まだ結論を出すべきでなく、更なる検討が必要としている。

5.緑内障手術

OBS Cobbら(2007)21)は、抗凝固・抗血小板療法中の緑内障手術(線維柱帯切開術)管理に関してレトロスペクティブ観察研究を行った。1994~1998年に線維柱帯切開術を行った367例中5例(1.4%)はワルファリン服用中の症例であり、手術では継続投与(術前INR 1.5~4.5)した。術後に全例で明らかな前房出血を認め、1例は眼窩周囲出血となった。また4例が術後の眼圧低下が不十分で手術不成功と判定された。ワルファリン投与中の線維柱帯切開術では出血リスクが高く、手術の成功にも影響することが示唆された。

 

[イベント]

(国内症例)

Case 八木ら(2013)22)は、強膜内陥術(裂孔原性網膜剥離)の手術に伴う網膜下液排液時の大量出血について報告している。

Case 中川ら(2010)23)は、白内障手術後に結膜創から再出血、止血に難渋した症例を報告し、患者個々の状況によって出血の可能性は術後も含め注意する必要があると考えた。

 

【参考文献】    [文献請求番号]

1)Douketis,J.D. et al.: Chest ,     133,     299S (2008)     WF-3002

2)Douketis,J.D. et al.: Chest,     141,     e326S (2012)     WF-3661

3)堀 正二ら: 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2008 年度合同研究班報告),1 (2010) WF-4122

4)井上 博ら: 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012 年度合同研究班報告),1 (2013) WF-4053

5)Lip,G.Y.H. et al.: Int.J.Clin.Pract.,     65,     361 (2011)     WF-4362

6)Kong,K.-L. et al.: Br.J.Ophthalmol.,     99,     1025 (2015)     WF-4366

7)Kiire,C.A. et al.: Br.J.Ophthalmol.,     98,     1320 (2014)     WF-4348

8)Katz,J. et al.: Ophthalmology,     110,     1784 (2003)     WF-4359

9)Barequet,I.S. et al.: Am.J.Ophthalmol.,     144,     719 (2007)     WF-2700

10)Kobayashi,H.: J.Cataract Refract.Surg.,     36,     1115 (2010)     WF-4591

11)Jamula,E. et al.: Thromb.Res.,     124,     292 (2009)     WF-4361

12)矢坂 正弘ら: 日本医事新報,    4382,     74 (2008)     WF-2826

13)Ong-Tone,L. et al.: J.Cataract Refract.Surg.,     31,     991 (2005)     WF-2523

14)Dayani,P.N. et al.: Arch.Ophthalmol.,     124,     1558 (2006)     WF-2482

15)Fu,A.D. et al.: Retina,     27,     290 (2007)     WF-2514

16)Oh,J. et al.: Am.J.Ophthalmol.,     151,     934 (2011)     WF-3603

17)Chandra,A. et al.: Br.J.Ophthalmol.,     95,     976 (2011)     WF-3632

18)Mason,J.O.3rd. et al.: Ophthalmology,     118,     543 (2011)     WF-3528

19)Ryan,A. et al.: Clin.Exp.Ophthalmol.,     41,     387 (2013)     WF-3983

20)新海 篤ら: 眼科臨床紀要,     4,     433 (2011)     WF-3562

21)Cobb,C.J. et al.: Eye,     21,     598 (2007)      WF-2564

22)八木 文彦ら: 眼科手術,     26,     285 (2013)     WF-3880

23)中川 卓ら: 眼科,     52,     83 (2010)     WF-3172

【図表あり】
 
【更新年月】
2021年1月