コントロールに影響する因子については、様々な視点や方法で検討されてきた。コントロールが良好であれば、出血や血栓塞栓症の発生率が低くなること1,2)から、コントロールに影響する要因の分析や把握は重要である。
目標治療域から外れる理由として、相互作用、服薬コンプライアンス3) ・アドヒアランス、用量変更、導入期、服薬過誤、患者の病態変化など4) が考えられる。INRの安定に関わる要因として、70才超、心不全の合併や慢性疾患がないことなどが報告1,2)されている。
国内の検討でも服薬状況や食事が影響する場合があり、お茶、山菜、納豆など5)の日本特有の生活習慣や国民性なども考慮が必要である。国内でコントロール指標のTTR (time in therapeutic range) (Ⅲ-12「コントロールの指標・評価 1. TTR (time in therapeutic range)とINR変動性(INR Variability)」の項参照)に影響を与える要因が検討されているが、70才以上、うっ血性心不全などが抽出されている。同じアジアでもTTR 56%以下が4分の3を占めている報告6)などもあり、コントロール状況の違いなど、解析結果の取り扱いには注意を要すると考える。
1)海外での報告
OBS Bentley ら(1986)3)は、4ヵ月以上安定したワルファリン療法を施行中の患者の検討で、ワルファリン投与量、血漿中ワルファリン濃度及び血漿クリアランスの測定値の信頼限界を用いて、異常なワルファリン反応性の原因を正確に予測するアルゴリズムを構築した。相互作用(バルビツール酸系)による作用減弱、相互作用(アミオダロン)による作用増強、服薬コンプライアンス不良などの事例を考察した。
OBS Wittkowskyら(2004)4)は、ワルファリン投与中の患者における治療域超及び治療域未満の頻度及び要因について観察研究で検討した。期間中INRは、治療域内に51.5%、治療域±0.2の範囲に66.1%であり、INR<2.0は24.8%、INR>4.0は4.7%と報告した。抗凝固効果不十分の原因の内訳は、用量変更に対する反応16.4%、服薬上の過誤16.3%、療法導入時16.9%、不明29.7%であり、抗凝固効果過剰の原因の内訳は、患者の疾病・健康状態の変化15.9%、用量変更に対する反応11.4%、処方箋薬との相互作用7.3%、服薬上の過誤5.6%、不明43.0%であると報告した。
OBS Wittら(2009)1)は、WARPED研究として、ワルファリン療法中のINRが安定している患者(連続する6ヵ月間のINRが全て目標域内)と対照患者(同じ期間内のINRが1回でも目標域外)において血栓塞栓症、出血、死亡の発生をコホート研究で比較した。INRが安定している患者では対照患者より出血+血栓塞栓症の発生率が有意に低かった。多変量解析では、INRコントロールの独立の予測因子が70才超、心不全および糖尿病の併発なしであった。INR安定患者では、目標INR≧3.0または慢性疾患が有意に少なかった。INRがコントロールしている患者の多くはINR評価の間隔が従来の4週以上でも安全に治療可能であることが示された。
OBS Wittら(2010)2)は、コホート研究にてワルファリン治療下で12ヵ月INRが治療域内の患者(安定例)と逸脱がみられる患者(対照例)において出血、血栓塞栓症、死亡を両者間で比較し、安定したINRコントロールの独立の予測因子を同定した。安定例では対照例に比べ、出血(2.1 vs 4.1%)と血栓塞栓性合併症(0.2 vs 1.3%)が有意に低率であった。多変量解析にてINRコントロール安定の独立した予測因子は70才超、男性、心不全なしであった。安定例では目標INR≧3.0と慢性疾患が有意に少なかった。INRが12ヵ月間治療域にある患者群は一般に高齢で、目標INR<3.0であり、心不全または他の慢性疾患を有さないことが示された。INRが長期にわたり治療域にある多くの患者は、INR測定間隔が4週間を超えても、安全に治療可能なことが示唆された。
他にアジアの事例として、Hoら(2015)6)は、中国にて心房細動に対するワルファリン療法のINRコントロールが脳梗塞、頭蓋内出血に及ぼす影響を観察研究にて検討した。
2)国内の報告
OBS 猪俣ら(2008)5)は、聞き取り調査で、ワルファリン療法中で血液凝固能検査値(トロンボテスト値)の変動要因を検討した。トロンボテスト値変動の定義は治療域を逸脱し、用量変更や食事指導を行った場合とし、男57.0%、女73.3%で差があり、年齢、原疾患、内服年数による差は認めないと報告した。患者への聞き取り調査にて、変動要因は、野菜の摂取、内服関連(内服忘れ、受診せず薬が不足、自己調節、併用薬、前回受診時に薬を調節など)、お茶、山菜、納豆などであり、7月、10月は野菜、6月は山菜、8月はお茶が多いことと報告した。
OBS 富田(2009)7)は、観察研究で、新鮮脳梗塞で当院に入院した心房細動患者で目標INR1.6~2.6のワルファリン療法のINR変動を調査した。1症例最大で連続12回のINR値を調査対象とし、用量は0.25mgないし0.5mgで調節した。INRは平均1.93で、目標域内73%、1.6未満20%、2.61以上7%であり、目標域外となった要因は96回中86回で不明と報告した。
OBS Okumuraら (2011)8)は、非弁膜症性心房細動でワルファリン療法中の患者でINRが目標域内にある期間(TTR)とTTRに影響する因子を検討した。TTRは全体で64%であった。TTRは70才未満46%、70才以上77%で有意差を認め、70才未満のTTR分布は極めて低値にシフトしていた。70才未満群ではINRが目標域未満の期間は51%であった。ワルファリン維持用量が2.5mg/日未満、2.5~4.9mg/日、5mg/日以上で区切るとTTRは用量が低いほど高く有意差を認めた。季節変動、性差、抗血小板薬併用の有無による差は認めなかった。ステップワイズ重回帰分析では、年齢とワルファリン用量がTTRの独立した予測因子であった。
OBS Tomitaら(2011)9)は、非弁膜症性心房細動患者の観察研究ATTACK-WF研究でTTRに影響を及ぼす因子を検討した。TTRは69.7%(70才以上79.5%、70才未満49.6%)であり、70才未満も目標域INRを1.6~2.6で算出するとTTR 79.5%であった。目標INRを1.6~2.6とした場合のTTR低値に有意に関連する因子は、多変量解析にて女性、うっ血性心不全がTTR低値に有意に関連する独立因子であると検出された。CYP2C9とVKORC1の遺伝子多型は、ワルファリン用量と有意な関連はあるが、TTRとは有意な関連は認めなかった。CYP4F2、CYP2C19の遺伝子多型はワルファリン用量との有意な関連はなかった。
【参考文献】 [文献請求番号]
1)Witt,D.M. et al.: Blood, 114, 952(2009) WF-4212
2)Witt,D.M. et al.: J.Thromb.Haemost., 8, 744(2010) WF-4142
3)Bentley,D.P. et al.: Br.J.Clin.Pharmacol., 22, 37(1986) WF-1761
4)Wittkowsky,A.K. et al.: Pharmacotherapy, 24, 1311(2004) WF-1945
5)猪俣 久美子ら: 北海道看護研究学会集録, 64(2008) WF-3005
6)Ho,C.-W. et al.: Stroke, 46, 23(2015) WF-4247
7)富田 英春: 心臓, 41, 1005(2009) WF-3109
8)Okumura,Ken et al.: Circ.J., 75, 2087(2011) WF-3594
9)Tomita,H. et al.: Thromb.Res., 132, 537(2013) WF-4269
【更新年月】
2021年1月